二人掛け

8/9
前へ
/9ページ
次へ
 相変わらずたるんだ声のアナウンスが流れ、バスが停まる。そして新しく乗り込んでくる乗客の中に、彼を見つけた。  私と同じ学校の制服。その夏服とスカイブルーの眼鏡の色がよく合っていて、涼しげな雰囲気を醸し出していた。学校指定の鞄を下げ、バスの奥へと歩いてくる。  さあ来た、と思ったら、不思議と背筋が伸びた。息を飲んで、彼の動向を監視する。  回りを見回すと、ほとんどの席が埋まってしまっている。ただ、私の隣を除いては。  二人掛けの席に、私一人が座っている状態。私の真横にある空白に自分が座ることに、みんな戸惑っている。  そう、誰もが戸惑う。迷う。バスの二人掛けは狭い。そこで、見ず知らずの人と隣り合って座ることに、抵抗を覚える。  だけど、だからこそ。試すのだ、彼を。  この瞬間を、ずっと待っていた。彼が、私の隣に座らざるをえない状況。そのために毎日、わざわざ家から離れたバス停に行き、少し遠回りになるバスに乗っているのだ。  さあ、彼は、同校とは言えど学年の違う私の隣に座れるか、座れないか。居心地の悪さを恐れて、避けないか。  私は、彼から視線をはずし、窓の外を眺めてまったくの無防備を装う。声がかからなかったら、残念だけど彼は私が求める基準に達していない。私は、彼に対してだけは、評価をつける。彼だけは特別だから。  頬杖をついて車窓の風景を眺めていると、すいません、と声がかかった。私は顔を上げる。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加