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ラクカァナはびっくりして周りを見回した。
―― みんな素敵な笑顔だ。
―― この人たちは、何物にも惑わされない、フラットな気持ちで私たちを見ている。
―― 大道芸かなんかにみえて、本当のプリンセスとメイドとは思っていないのだろう。
―― 私たちの間の絆も、自然に彼らに届いているのかもしれない、二人の他愛のない、こんなやり取りだけで。
ラクカァナの中でひとつの留め金がゆっくりと外れた。
「皆の好感の拍手で改めて思う。私がこんな小さい時にメリ・エレノアが私のメイドになってくれた運命にいつも私は感謝しているんだ。初めて、告、こくら、こくり、告るが」
アニメで覚えたばかりの告るという言葉はすぐにでてきていたのだが、照れ隠しなのか、わざと不慣れな感じにしてしまった自分が不思議だった。
故国に居る時の、本当の自分を隠して、いつもプリンセスという立場で人に接さなければならないという習慣が、この彼女にとって憧れの漫画・アニメの自由の国、ジャポンに来ても、まだ抜けきれていないからであることに、少女は気づけていなかった。漫画・アニメに出会うまでの故国での年月は、プリンセス・ラクカァナにとって、周りの大人に見張られた世界でしか生きることのできない、まるで牢の中にいるような生活だったのだから。
「ラクカァナ様、ラクカァナ様・・・こんなに、感動で、泣いておりますのに、ほっとくんですか?・・・ぼおっとしておいでで・・・」
ラクカァナはエレノアの顔が鼻先にあるのに気づきびっくりした。
指ハート越しに見えるエレノアの潤んだ瞳に漫画の吹き出しが読めた。
何と書いてあるかわかったが、エレノアには言わなかった。
それは愛おしく思える言葉だった。
―― この国に来てつくづく思うんですよ、エレノア。
―― 私たちの生まれた国では、私とあなたはプリンセスとメイド。
―― 漫画とアニメが教えてくれました。そういうのは、何か起こったらすっ飛んじゃうから、ほんとはどうでもいいんです。
―― 立場なんかは案外どうでもいいんだってわかったんです。
―― ラクカァナは、あなたと友人になりたいんですよ、エレノア。
―― ラクカァナ様、私は悩んでいます。
―― この漫画とアニメの国ジャポンに来てから、あなたをプリンセスとして見れなくなってきているんです。なぜでしょうか?
―― ラクカァナ様のもとで慣れて心地良さすら感じていたメイド、その身に着いた自然なメイドが出来なくなってしまっているのです。
―― わたしはラクカァナ様のメイドだと一生懸命自分に言い聞かせなければならない、そんな自分がいるんです。
―― ラクカァナ様、エレノアはどうすればよいのでしょう?
ラクカァナはエレノアのスクール水着についたゴミや土を優しく落としていた。
安心しきったエレノアはされるがままだった。
二人はしばらく何も話さなかった。
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