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オオロットがガラス窓から振り返ると顔をあげたレズアンの姿がそこにいた。どうやら、自分の今すべきことを理解し気力が出てきたようだ。
それを見てオオロットは微笑んだ。
「さて、護衛の件だが無法地帯の場所に我が騎士団を多く送り込むのは争いの火種になりかねない。申し訳ないことだが、ゴンザレス殿には案内人と護衛役のふたつの仕事を与えて雇うことにしようと思う。それともうひとり近衛兵のなかで一番の力持ちである剛腕のドーガをお前につけさせよう」
「ありがとうございます。…申し訳ありません。結婚式を台無しにしたためにお父様には多大な迷惑をおかけしました」
レズアンは己の失態を恥じていたが、それをオオロットは豪快に笑ってみせた。
「レズアンよ。気にすることはない。来賓客には婿殿が逃げた原因を身分の差、年の差で自分と結婚する資格があるのかと悩んでいたと私が説明しておいた。だから、特に貴婦人方がその話題で盛り上がっておる」
「こちらが深刻な問題なだけに複雑な気分ですわ」
「フフ、我がおてんば娘が起こす面倒ごとには慣れているのだよ」
「まぁ、お父様ったら酷い」
子ども扱いされたレズアンはふくれっ面をしてみせた。
「とはいえ、先程も言ったがこのまま婿殿を逃がせば貴族として恥をかくことになる」
「…お言葉ですが、私がスサマ様を追う理由は汚名返上のためではありません。愛した相手を追うためです」
「分かっておる。婿殿は気づいていないらしいが彼には過去にも恩がある」
「本当は再会したときにあのときのお礼を述べたかったです」
「それができなかったのは私が口止めをしたからだ。あのことは秘密にしなければならない。…しかし、今回護衛をするドーガは口が堅く忠実な男だ。場合によってはあの秘密を婿殿に話すことを許可する」
「分かりました。…それとお母様のご様態はいかがでしょうか?」
レズアンは心配そうに父を見る。
彼女の母親は体が弱い。騒動のあと体調を崩したと聞いている。
「心配するな。今は安静にしておる。…カミラは芯の強い女性だ。彼女も今回のことで婿殿を恨むようなことはしない」
「…ありがとうございます」
ふたりの会話が終わりレズアンが執務室から退出すると、ひとりになったオオロットは両手を組み精霊たちに祈った。
(どうか、愛娘のレズアンと恩人であるスサマ殿が無事に出会えるように願う)
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