●不幸な男、幸せな結婚から逃げる!●

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 ミューリンからそれなりに離れた後、岩の影に隠れてスサマはタキシードから冒険服に着替えようとした。 「俺が生まれた頃のあの場所は本当に何もない田舎町だった。当時はまだ自分のタレントについて知らなかったからミューリンはそういう場所だと思っていた。それから、冒険者として名をあげるためにつまらない故郷から抜け出したけど、その後に鑑定師からこの不幸な能力を聞かされたんだよな…」  スサマは視線を地面に落としながら前にも聞いた過去の話をぽつぽつと喋りだした。  当時、タレントの鑑定結果を聞かされてスサマは酒場で酒を飲まずに落ち込んでいた。それを奇妙に思ったゴンザレスが声をかけたのがふたりが出会うきっかけとなったのだった。 「10年ぐらい昔だったかな。生まれ故郷がとてつもない不運に襲われたのは」  実はミューリンが幸福の街と呼ばれ出したのは数年前からだった。  その前、特に10年前のミューリンは伝染病が流行ってしまった後で大災害にみまわられた過去がある。  この不運の連続で死者も多かった。 「少し迷ったが、気になって故郷に帰ってみたら想像を遥かに超えた地獄絵図だったよ。病で体が痩せ細った人々、災難続きで生きる気力をなくした人々、それを知ったら愕然(がくぜん)として立っていられなくなった」 「…それも自分のタレントのせいだというのか?流石にそれは違うだろ。だって、その時お前は故郷にいなかったんだから。いつも言っているが不幸の原因を全部自分に繋げようとするなよ」 「ふん、原因がどうあれ俺が領主の娘なんかと結婚しちまったら、また不幸な街に戻ってしまうかもしれない。俺はそんな責任は取れないというだけの話さ」
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