●逃走する花婿と追跡する花嫁●

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●逃走する花婿と追跡する花嫁●

 ミューリンの門番は大変困っていた。  ただでさえ、今日は祝い事で沢山の人の出入りなのに、そこへ花嫁衣装のままの領主の娘が現れてしまっては場が混乱しないわけがなかった。  どうやら、彼女は逃げた花婿を追いかけてきたらしいが、そのおかげで野次馬も一気に増えて門の前は人でごった返しをしていた。 「姫様、落ち着いてください。(のち)に外の探索も(おこな)いますので、どうか屋敷にお戻りください」 「何を言っているのです。スサマ様がここを通ってからどれくらい経っているとお思い?早く追いかけないと見失いますわ!」 「今日は大切な来賓客も多いため厳重な警護体制を取っています。すぐには探索隊を編成することができないのですよ」 「私の夫になる方を最優先しなくてどうするの!」  だからといって、門番は今にも街の外に飛び出そうとする彼女を放っておくわけにもいかなかった。  最初、花婿であるスサマが凄まじい速さでここにやって来たときは驚いた。こちらの制止を振り切って門の外へ出ていった後、あまりにも突然の出来事に門番は唖然としてしまった。  しばらくしてから、姫様もやって来たのだが正直にいって門番としては迷惑なことであった。  花婿に逃げられたとあっては姫様の名に傷がついてしまう。それを姫様自身が大声で花婿の名前を呼びながら走れば、花婿に逃げられたという事実が周囲に早く知られてしまう。  それに、騒ぎが大きくなればより大変な事態に発展しかねない。  見れば、周りの野次馬がまだ増え続けており、姫様の護衛である近衛兵たちが襲撃の警戒でピリピリとしていた。  そもそも、今彼女が町の外に出ても花嫁衣装なので速く走れなく、ふたりの差が縮まるどころか逆に広がってしまって追いかける意味がない。  故に、門番は何とかここで彼女を踏みとどませようとした。
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