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翌朝、満を持して脱走決行のときがきた。
ママ、パパ、お姉ちゃんの順に起きてきて、慌ただしいことこの上ない。洗面所やトイレの争奪戦が始まり、早くしないと電車に間に合わないだの遅刻するだの、ほんとにやかましい。
僕みたいに早起きをして、ママから朝ごはんを出してもらって、優雅に専用のトイレで用を足せば何事も余裕なのに。
「おーい、ママ。新聞は?」
「あら、いけない。忘れていたわ。すぐに取りに行くから」
よしよしよしー。このときを昨夜から待ち焦がれていたんだ。
ぱたぱたと玄関に向かうママのあとにそっとついて行ってと……。
「ママー、ボーイがついて行ったから気を付けてねー」
ちっ、余計なことを……。
普段はぽやんとしているくせに、お姉ちゃんが僕の行動を監視していやがった。
「ボーイ、こっちに来ちゃダメよ」
ほら、まただ。
どうしてダメって言うの? 僕はもうその言葉にうんざりしているんだ。
なぜパパもママもお姉ちゃんも気が付いてくれないのかな。
ママのうしろで大人しく座っているフリをして……。
カチャリと鍵が開く。ママが一度、僕の様子を窺うように振り返る。
僕は小首を傾げて、何も考えていませんよと可愛いフリをして誤魔化す。
ママがそっと玄関の扉を開き、新聞に目を遣った。
今だ!! 僕は目いっぱい後ろ足に力を入れて駆け出した。
ほんの少し開いていた隙間を狙い、ママの足元をかいくぐって玄関の向こう側へと走り抜けた。
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