審判の刻

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親父は不愉快そうに片眉を釣り上げた。 「頭!あっしからもお願いしやす。坊ちゃんの夢を叶えさせてあげて下せえ」 「何が夢だ。夢を叶える人間なんて一握りだ。大抵の者は現実の前に挫折し、無難な道を歩む」 「親父…」 親父の言うことも一理ある。 俺は言葉を失った。 田中も茫然と親父を見ている。 「話はそれだけか?今日は会合で疲れている。もう休ませろ」 親父は話は終わったとばかりに布団の入っている襖を開ける。 とりつく島もねーのは、この事か? と、その時、俺にある考えが浮かんだ。 「親父。卒業までに親父が納得できるケーキを俺が作れたら考えを替えてくれるか?」 「坊ちゃん?!」「ほう…」 確か香澄がケーキ屋でバイトしてた筈だ。 俺もそこでバイトしてケーキ作りを盗み見て屋敷でもバイトが休みの日にケーキを見よう見真似で作ってみようと思った。 道は険しいが、何もしないで諦めるよりマシだ。 「面白い。できるものならやってみろ。そしたらパティシエを目指しても良い。ま、無理だろうがな」 「頭…」「素人でも、やってやるよ」 俺はそう言い残すと、部屋を出て行った。 田中も慌てて部屋を出た。 俺はバイト先のことを知る為に香澄に連絡をとってみようと思った。
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