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数日後
放課後。
俺はバイクを引きながら途中まで香澄と2人きりで帰った。
鈴木は野良犬達に餌をやってから帰ると言っていた。
「また、こうして千夜くんと帰れるようになって嬉しいわ」
「ああ、俺もだ。メットが2つ在れば古屋敷まで送ってってやれるんだけどな…。今度、メットを買いに行くか?」
「うん!嬉しい…。でも杏奈さんに見られたら…」
香澄は歩きながら、伏目がちになる。
俺と幸せになりたかったと言って泣いてた杏奈。
俺は今まで何人の女を泣かせてきた…?
香澄は…香澄の事だけは、大切にしてー。
「大丈夫だ。言ったろ?香澄の事は俺が守るって」
「ありがと、千夜くん。…でも、私、未だに千夜くんの口から肝心の言葉を聞いていないんだけど」
香澄の言いたい事は直ぐにわかった。
「肝心の言葉って、キスしただろ?」
「きちんと言葉にしてくれないと嫌」
「わかった。香澄…」
俺はバイクを引いていた足を止めて香澄を見つめた。
香澄も立ち止まって、俺を見上げる。
「好きだ。世界中の誰よりも香澄が1番、好きだ」
「千夜くん…」
香澄は感極まった声で片手で口を覆った。
「こんなにハマった女は香澄が初めてだ。この先、どんな女が現れても俺の気持ちは変わらねー」
「私も…私も千夜くんが大好き。私の気持ちも変わる事は無いわ」
「香澄…」
「千夜くん…」
目を閉じた香澄を見て、俺はバイクを握り締めたまま、香澄の唇にキスを落とした。
杏奈の件…パティシエの件…そして、この先、出てくるかもしれねー新たな問題。
でも、香澄が居れば乗り越えられる気がする。
長いキスをしたまま、俺等は将来の事を確実に心に描いていた。
そして、コンビニの近くで香澄と別れた後、俺はバイクに跨り屋敷へ帰る。
屋敷の前まで帰って来た時、郵便受けに何やら入っているのに俺は気付いた。
まさか…又、杏奈か?
俺は郵便受けを開ける。
封筒は例によって白い正方形だったが、宛先と消印が押されていた。
裏を見ると黒い文字で『小林杏奈』とだけ書かれている。
当然、封はしてあったから、俺は手紙を持って屋敷内に入っていった。
「坊ちゃん!今日も、よくご無事で」
玄関で田中に出迎えられた。
俺は手紙を見せた。
「田中。杏奈から、これが送られてきた」
「坊ちゃんが良ければ、あっしが開けやしょう!中に何が入っているか解りやせんから」
大丈夫だとは思うが、田中の心配は時に迫力がある。
「あ、ああ、わーったよ」
自室に田中と入ると俺は椅子に座った。
田中が封筒を開ける。
と、中には綺麗に折り畳まれた便箋が入っていた。
「これだけみたいですな。坊ちゃん、自分は自室に居るので困ったことがあったら呼んで下せえ」
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