18.44

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真夏の直射日光が容赦なく降り注ぐ。この場に遮るものなんて何もない。通気性の悪いユニフォーム、ましてやキャッチャーマスクにプロテクター、レガースまで着けていたら汗が止まるわけもない。それでも、この暑さを気にしている余裕のある選手はこの球場にはいない。 18.44メートル先のマウンドに向かってサインを出す。頷き返してくれたことを確認してキャッチャーミットを構える。 マウンド上ではセットポジションに入る。目で各塁のランナーを牽制し、そして投球モーションに移った。 左足が上がり、大きく踏み出す。全身が綺麗に連動し、指先に力が集約していくのがここからでも良く分かる。放たれた白球は、吸い寄せられるように構えたミットに真っすぐ向かってくる。 マウンドからミットまで、時間にしたら1秒もかからない。ミットに飛び込む衝撃を期待して待ち望むが、視界の端から飛び込んできた金属バットに遮られる。 鋭い金属音が球場全体に響く。同時に歓声と悲鳴。応援の吹奏楽が止まる。 マスクを投げ捨て、打球の行方を追う。豪快に引っ張られた打球はレフト方向に高々と上がっている。飛距離は十分過ぎて、レフトを守る外野手の足も止まっている。球場にいる全員が、その打球を見つめる。 期待と絶望を一心に背負った打球はやがて、ファウルポールをわずかに左に逸れて、スタンドに吸い込まれていった。様々な思いがこもったため息が球場に溢れる。 今の打球は流石に背筋が凍った。タイミングが僅かにずれていたら完全にホームランだ。 地面に落ちたキャッチャーマスクを拾い上げると汗が染み込んだマスクに土がこびりついている。太ももで拭い落としていると、球審から新しい球を手渡される。 「タイムお願いします」 そう要求すると球審は直ぐに両腕を広げタイムを宣告した。それを確認してからマウンドへと駆け寄る。俺が近づいて来ることに直ぐに気が付いて、マウンド上で笑顔を浮かべる。
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