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それはもう、一目惚れだったと思う。小学校には近隣の子どもたちと列をなして通う。当時六年生だった倫太郎は『班長さん』だった。ぴかぴかのランドセルを背負って、お母さんに手を振られながらいってらっしゃいと送り出されたわたしは不安でいっぱいだった。
「一年生の子? ぼく、倫太郎。きみは?」
お母さんのほうを何度も振り返りながら集合場所に着くと、倫太郎が声をかけてくれた。大人ほどじゃなくても、見上げるほど背の高い彼は、すらりと長い脚を折り畳み、わたしと目線を合わせて話しかけてくれた。
「つむぎ」
頷きながら名前を言うだけでいっぱいいっぱいだった。倫太郎はわたしの頭を優しく撫でて、にこりと笑った。
「つむぎちゃん。これからよろしくね。安心して。ぼくが安全に学校まで送り届けるから」
ふわりと爽やかな風が頬を撫でて、まだいくらか咲き残っていた桜の花びらが舞った。そのときのわたしには、倫太郎は王子様みたいに見えたんだ。見惚れて固まったわたしを心配した倫太郎は、その日は手を握って歩いてくれた。
すっかり倫太郎を気に入ったわたしは、彼を追いかけ回すようになった。見かけては名前を呼び、手を振り縋り寄る。そのたびに倫太郎はいやな顔ひとつせず、一緒に遊んでくれた。
「あのね、倫太郎。わたし大きくなったら、倫太郎のお嫁さんになりたい」
そんなこと言えたのも、幼さゆえだ。倫太郎は「嬉しいな。約束だよ」なんて言ってくれたっけ。
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