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覚悟していた頬への痛みはやってこず、代わりにかしゃんと言う音がした。恐る恐る目をひらくと、倫太郎の眼鏡が地面に落ちてひび割れていた。
「ちょっと、ぼくの未来のお嫁さんに手出すのやめてくれない?」
「倫太郎くん、本気なの?」
「だからそうだって言ってるじゃん。そういうことだから、ごめん。紬、帰ろう」
倫太郎の手がわたしの頭に伸びてきて、そのまま空を切った。
「あれ? 眼鏡ないから距離感が掴めないや。紬、家まで送って」
「しょうがないな」
倫太郎の眼鏡を拾い上げ、ハンカチで包んで鞄にしまう。そして、倫太郎の手を握る。久しぶりに握った倫太郎の手は、覚えていたよりも大きく、そしてちょっとごつごつしていた。
「ほら、こっちだよ」
憮然とした表情を浮かべるお姉さんに軽く頭を下げ、家路へと向かう。勢いでいろいろと恥ずかしいことを言ったのを思い出して、何を話したらいいかわからなくなる。繋いだ手にじっとりと汗をかいて、それを拭いたいのに倫太郎はわたしの手を放してはくれない。ちらりと倫太郎の表情を窺うと、口角が上がって嬉しそうに見えた。
「倫太郎、今何考えてるの?」
「ん? 今日はいいこと続きだなって」
「眼鏡壊れちゃったのに?」
「あー、そっか。眼鏡なんてどうでもいいんだよ。だって、紬、おれと結婚してくれるんでしょ?」
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