38人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
落ち着かない気持ちで倫太郎の背中を見つめていると、倫太郎は急にしゃがみ込んだ。しばらくして立ち上がると、こちらを向いてわたしの髪に触れた。
「紬、好きだよ。結婚を前提にお付き合いしてください」
落ちかけた日が倫太郎の姿を紅く染める。いつになく真剣な表情にどきりとした。
「こちらこそお願いします」
「よかった。でも、紬がもっと大人になるまで変なことはしないよ」
「変なことって?」
そう訊ねると、倫太郎はくすくすと笑う。
「うーん、お触りとか?」
「でも、手は繋いでたでしょ」
「そうだね。手は繋ぎたいかな」
「……わたしも」
もう一度手を繋ぎ直して、歩き始める。倫太郎がわたしの彼氏なんだ。心が舞い上がってスキップしたくなる。気づけば辺りは暗くなって、街灯がぽつりぽつりと点灯し始めた。オレンジの柔らかな光は、なんだかわたしの幸せな心を投影しているみたいに見えた。
◇◇◇
「ただいま」
上機嫌で帰宅したわたしをお母さんが笑顔で出迎える。
「あら、紬かわいいの付けてどうしたの?」
「え、何?」
鏡を覗くと、桜の花がひとつ、髪の間に挟み込まれていた。倫太郎がつけたのだろう。まだ綺麗な形を保つ桜の花は、押し花にして保存することにした。
最初のコメントを投稿しよう!