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 落ち着かない気持ちで倫太郎の背中を見つめていると、倫太郎は急にしゃがみ込んだ。しばらくして立ち上がると、こちらを向いてわたしの髪に触れた。 「紬、好きだよ。結婚を前提にお付き合いしてください」  落ちかけた日が倫太郎の姿を紅く染める。いつになく真剣な表情にどきりとした。 「こちらこそお願いします」 「よかった。でも、紬がもっと大人になるまで変なことはしないよ」 「変なことって?」  そう訊ねると、倫太郎はくすくすと笑う。 「うーん、お触りとか?」 「でも、手は繋いでたでしょ」 「そうだね。手は繋ぎたいかな」 「……わたしも」  もう一度手を繋ぎ直して、歩き始める。倫太郎がわたしの彼氏なんだ。心が舞い上がってスキップしたくなる。気づけば辺りは暗くなって、街灯がぽつりぽつりと点灯し始めた。オレンジの柔らかな光は、なんだかわたしの幸せな心を投影しているみたいに見えた。 ◇◇◇ 「ただいま」  上機嫌で帰宅したわたしをお母さんが笑顔で出迎える。 「あら、紬かわいいの付けてどうしたの?」 「え、何?」  鏡を覗くと、桜の花がひとつ、髪の間に挟み込まれていた。倫太郎がつけたのだろう。まだ綺麗な形を保つ桜の花は、押し花にして保存することにした。
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