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 中学に上がり、吹奏楽部に入ったらしい倫太郎は、部活のある水曜日と金曜日は帰りが遅い。だから、他の曜日を狙っては、倫太郎の家に遊びに行った。とはいえ小学生と中学生だから、帰宅時間が全然違う。早い時間から家に押しかけても、倫太郎ママはいつでも笑顔で迎え入れてくれた。  黒い学ランに身を包んだ倫太郎は、すっごく大人に見えた。やっぱりわたしの倫太郎ってばかっこいいなって、そればかり考えていたころは平和だった。  ある日の夕方、いつものように倫太郎の部屋の窓から彼の帰りを待っていたわたしは、倫太郎がセーラー服の女の子と歩いているところを目撃した。そのとき初めて知った。倫太郎にも倫太郎の世界があるということを。倫太郎とあまり背丈も変わらず、長くて綺麗な黒髪をポニーテールにまとめたその女の子は、当時のわたしにとっては綺麗なお姉さんにしか見えなかった。  お嫁さんにしてもらうって約束が絶対だと思っていたわたしは、このときにそんなことはないんだなって悟った。倫太郎は優しいからわたしの相手をしてくれているだけで、そのうちお似合いの彼女ができて、わたしの倫太郎じゃなくなるんだって気がついた。悲しくて、涙が止まらなかった。部屋に入ってきた倫太郎は、号泣するわたしを見つけて、ものすごく戸惑っていたっけ。 「倫太郎、大好き」  泣きながらそう伝えたわたしの頭を倫太郎は撫でてくれた。けれど、それも嬉しくなかった。だって、そんなの子ども扱いされているとしか思えなかったから。
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