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 ふたりがどんどん近づいてくる。その場から消えてしまいたいのに、動くこともできなくて。それでも情けないことにしっかりふたりの会話に聞き耳を立てている。 「試験終わったら、倫太郎くんに言おうと思ってたことがあるの」 「なに?」 「私、倫太郎くんのことが好き。高校入学して、同じクラスになったでしょ。そのときからずっと好きだったの。予備校でも同じクラスになれて、同じ大学に入りたくて頑張れたの。もしよかったら、私と付き合ってください」  最悪な場面に居合わせてしまったなと思う。わたしのほうがずっと前から倫太郎のこと好きなのに。でも、わたしはちゃんと自分の気持ちを倫太郎に伝えなかった。言葉にしなければ、伝わらない。それに、こんな真っ直ぐな告白を受けたら、倫太郎だって心が動くかもしれない。どうして、わたしは自分の気持ちに向き合わなかったんだろう。失ってからじゃ遅いのに。  なぜか倫太郎はなかなか返事をしない。もう、早く切ってくれって切腹を待つ武士の気分だ。ただ静かに揺れる川面を見つめ、魚でも飛び出さないかと待っているふりをする。相変わらずわたしの聴覚はふたりの様子に集中したままだ。  そして、こちらに近づいてくる足音に気づく。まさか、倫太郎? 頼むから今はこっちにこないで、と欄干にしがみつく。
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