#2

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#2

 流石にあんなことをされてしまえば、誰だって勘違いしてしまうと思うのだ。俺だって思った。え、こいつ俺のこと好きなんじゃね……? とかさ。青春かよ。思春期かよ。チョロインかよ。  しかし残念ながら、答えはノー。 「あっ……ン、そこ……っ!」  ギシギシうっせぇ。今日も今日とて、同居人は元気だ。あいつそのうちオラウータンとかチンパンジーも抱き始めるんじゃないかな。  ベッドが軋む音と女の喘ぎ声に混じって、折本の荒い息まで聞こえてくる。このマンションちょっと壁薄いんじゃないの? いつもはヘッドホンで音を遮るが、今日はなんだかそのタイミングも失ってしまった。  こういう盗み聞きって、モザイクなしの動画よりも生々しさが増してエロいんだよね。下半身を見下ろして、溜息をつく。やっぱり早いうちにヘッドホンをつけておくんだった。  別に、俺だって男だし、こんなんずっと聞かされていれば反応くらいするだろう。逆に安心だ。普段使う機会なんてないのだから、勃起能力のある健全なちんこだって分かってよかったじゃない。 「クッソ……俺も対抗してやろうか?」  俺のアナニーテク舐めんなよ。女よりアンアン言ってやるわ。しょうがない。俺の秘密道具を出すとしよう。  ベッドの下、というまた典型的な場所に隠したアダルトグッズを引き出す。折本に抱かれるようになり、その回数を重ねる度に増えていった。ディルド、バイブ、バイブ、ディルド。そしてディルド。俺、ちんこ好きすぎだろ。 「でも、一番好きなのは~……コレ!」  電動エネマグラ~!  猫型ロボットのように心の中で唱え、変な形の黒い物体を掲げる。スイッチを入れるとぶるぶると動き始めた。  普通に見ているとなかなかに気持ち悪い動きをする。意思を持った地球外生命体みたいで、ちょっと萎えてしまう。こいつはケツに入っていない限り価値がないな。気味の悪い動きをする黒い物体をつい白い目で見下ろした。 「慣らすの、めんどいな」  まぁ、いいか。別に折本のちんこ入れるわけでもないし。ズボンと下着を脱いで、ローションを手に垂らす。椅子の上に膝を抱えて座っていたが、勝手が悪く机の上に足を投げ出した。  濡れた指で淵の周りを皺を広げるようにして撫で、ぐにぐにと押して柔らかくする。ローションの滑りもあって、自然と人差し指がつぷりと入っていった。第一関節あたりまではすぐに飲み込まれ、中で曲げて入口を押し広げる。 「っん……あっ、ぁあっ……!」  俺の声ではない。隣の女だ。俺はいい子だから、ちゃんと我慢してる。壁が薄いのは分かりきっているからな。お楽しみの折本を邪魔するわけにはいかない。 「っ……」  乾いてきたローションを足して、さらに滑りがよくなったことで簡単に二本目の指が入り込んでいった。最初は入り口付近までしか入らなかったものが、気がつけば第二関節あたりまで入るようになっている。  柔らかい腸壁が熱と共に指にまとわりつく。中の柔らかさと対照に、入り口はいまだにきつく指を締め付けていた。二本の指をばらばらに動かしながらほぐすと、ちゅぱ、といやらしい水音が小さく立つ。 「ぅ、ん……っ」 「あ、あぁあ~っ、ぃ……っ」  うるせぇな。俺は今、ケツの穴ほぐすのに集中してるんだよ。静かにしてくれ。  俺がこんなに堪えてるっているのに、壁の向こうからは抑えることもない声が聞こえてくる。折本が吐息とともに笑うのが聞こえた。本当に壁が薄い。隣の女はそろそろ限界も近いのかもしれない。  謎の対抗心で指を引き抜くと、エネマグラの先端をあてがった。押し込めば、直腸につっかかることもなくゆっくりと飲み込まれていく。 「は……っ」  全部入った。ついいきんで抜けそうになってしまうのを押さえ、深呼吸をする。前立腺まで届いた先端が、息をする度に僅かに動いて刺激を送る。じわじわと送られる快感に、締め上げられたそれがまたさらに刺激を生む。  机の上に投げ出した足がガタン、と音を立てた。 「んぐっ……ふ、ん」  慌てて口を塞いだが、壁の向こうが一瞬静かになった。俺が水を差してしまったみたいだ。壁ドンしたかったわけではなくて。むしろ全然やってください。勝手に俺も楽しんでるんで。  息をするだけで、自然と中で動く道具が性感帯に刺激を送る。ぎゅ、と締め付けてしまい、さらにごりごりと擦られて。気持ちいいけど、ちょっと物足りない。微動な刺激だけでは、もどかしさばかり感じて満足できない。ただ、こうして待てをされるみたいに攻められると、確実に全身は敏感になっていく。  下腹部がきゅん、とした。先端はすっかり濡れそぼっている。刺激が欲しくて欲しくてたまらないみたいに、ぴく、と竿が揺れる。もういっそ触ってしまいたかったが、それはもったいない。  どうせならもっと限界まで。折本のが欲しくて我慢できなくなるくらいまで焦らしたほうが気持ちいい。シャツの裾を咥え、手のひらで素肌優しく撫で上げる。ぞわぞわした感覚が内側にじん、と広がり、腹の中の異物を締め上げる。 「ん、っ……ふ」  内襞がもっと、とでも言うようにぴったりと収まった玩具にまとわりついてひくひく震える。手を伸ばしてスイッチを最弱の状態でオンにした。ただでさえ前立腺にあたっていた無機質な物体が、機械的に動いて直接的な刺激が与えられる。 「っ……っは、ぁ、ぅ、ぐ」  おかしい。本当に、俺はおかしい。折本が俺の体に変なことを教えるからだ。  何の緩急もない動きでただひたすらに前立腺をごりごりと圧迫される。漏れそうになる声を必死に飲み込むが、無感動な機械の動きには情け容赦は当然なく、高められた興奮をもう我慢できない。 「――あっ……ん、ふっ、ンあ、」  お隣さんも、どうやら楽しくやっているらしい。いいよ、もっと喘いで。もっと激しくやってくれ。ベッドが軋む音がする。その音を立てているのが、俺の同居人であることを自覚させられ、ぎゅぅ、と後ろを締め上げた。  噛んだシャツが唾液でどろどろになっている。必死に顎に力を入れるが、勝手に緩んでしまうせいでもう意味がない。手で口をきつく覆って、もう片方の手で先走りを垂らしている前を緩く扱いてやれば、すぐにでも達しそうな愉悦が全身に広がった。  がくがく膝が震える。机がガタ、と揺れるがもう構ってられない。前を扱くとその分、後も締め上げられて、限界まで高められた大きな絶頂の波が一気に弾けた。 「ン――ッ!」  びゅる、と飛んだ精液がそのまま断続的に吐きだされ腹を汚す。そのまま下に落ち、椅子の上にぽたぽたと垂れていった。机の上に乗せた足は、誰にも見られていないのをいいことに馬鹿みたいに弛緩しきって痙攣している。  イった直後でも、止まらない機械の動きにさらに宙を蹴ってしまう。慌ててスイッチを切ろうとするが、力も入らずうまく手がたわない。力んで勝手に抜けてくれ、と踏ん張るがそんなことをすればよけいに腫れあがった前立腺を強く擦られるだけだった。 「っ、い、んっ、ふ……あ、」  椅子の背もたれを強く握り、腰をくねらせ、どうにかして直腸にしっかりとハマっていまった玩具を取り出そうとする。 「んっ」  ごと、と大きな音を立て、床に黒い物体が落ちた。機械音を立ていまだに動き続けるそれが床をごりごりと擦る。あわわわ、音が、音が響く。おい、空気読めよ。お前本当に前立腺擦る以外に能がねぇな。ケツから出ればもう用なしなんだよバカ。  急いでスイッチを止め、壁の向こう側を窺う。 「あぁあぁ~っ!」  すっげぇ元気。俺が幽霊だったら除霊されてる。  安心してペタン、と床に尻をついてしまったが、ローションや精液でべちょべちょに濡れたケツのせいで気持ち悪さが半端じゃない。だけど起き上がって着替える気にもならなくて、しばらくは椅子に伏して、隣室の情事をBGMにぼーっとしていた。  虚しいな。終わった瞬間にやってくるこの気持ちはなんだろう。俺には人肌が足りていないのかもしれない。折本もそうなのだろうか。人肌恋しいから毎日のようにセックスしているのか。それとも気持ちいいのが好き? 「どっちも俺でいいじゃん……手軽に済んでよくない?」  まぁちょっと、胸はないかもしれないが。でもほら、代わりにちんちんついてるしね! ハハ! 「…………はぁ」  唇を指でなぞる。思い出すのはこの間のキスだ。女々しいことをしている自覚はあった。それでも気にはなるだろう。 あの日、折本は一杯しか飲んでいなかった。そのくらいで酔うほどの下戸じゃないと俺も分かっている。あの時の折本は確かに正気だった。  なんだか、初めて折本に抱かれた時みたいだ。酔った折本の好きも愛してるも、それが本心なのか出まかせなのか分からず、しばらくは本気で考えたし本気で悩んだ。そもそもあれは一体なんなのか、と。  悩みすぎて正直、綺麗さっぱり忘れてくれていて都合がいいとまで思った始末だ。だってあんなに善がり狂うだなんて思わないじゃん。ちんこに狂う自分に最初は俺が幻滅していたのだから。  それにそもそも折本は特定の恋人は作らず誰とでも寝たし、性に奔放な人間であることも高校時代から変わらない。だから、俺もその中の一人。無駄に深く考えるな。大した意味なんてきっとない。 そうやって整理をつけたというのに。  唇をぐにぐにといじる。俺の唇ってそんなに魅力的? キスしたくなっちゃう? 誰かに聞いてみようか。友達いないけど。 「なんで、ああいうことしちゃうのかね」  辛うじてルームメイトのポジションに収まっているだけの寄生虫だ。妙な期待をさせないでくれ。
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