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 肩に載せられたままの碧の手の熱を感じながら、ローテーブルに出してあった自分のスマホに指を滑らせた。  本当は、学校にスマホを持って行ってはいけないけれど、皆こっそり持って行っている。だから依人も今スマホを持っているわけで。基本的に電源は落としたまま、体育の時はクラスの違う者同士預け合っている。  依人が出していたのと同じシネコンのサイトを開いて、両方の映画の上映時間を確認する。  その俺の手元を覗き込む碧がぴたっと身体を寄せてくる。  息もかかりそうな距離に鼓動が速くなる。 「あ、10時台ならほぼ同じ時間に始まるからいいんじゃないか?」 「ほんと?耀くん、こっち一緒に観てくれる?」  上目遣いがめちゃくちゃ可愛い。  解っててやってるなら極悪だと思うくらい可愛らしい。 「いいよ。俺もあれ面白かったし」 「わーい」  この碧は、よく笑う。  笑いながら俺を覗き込み、話しかけ、そして触れてくる。  ギャップが大きくて、くらくらする。 「依人、俺と碧、別のやつ観るけど時間ほぼ一緒だから」 「あ?ああ、いいんじゃね?時間一緒なら。後で合流できるし」 「えー?じゃあちかも耀くんたちの方観る。アクション苦手だもん」 「俺たちが観るのサスペンスだよ?いい?ちかちゃん」 「…ちか、難しいの分かんなくなる」 「じゃ、こっちは?ちかちゃん。ラブストーリー。これも同じくらいの時間にあるよ」  (さくら)が、話題のイケメンアイドルの出ている映画を指差した。 「うん。そっちにする。ちか、ラブストーリーの方が好き。さっちゃんも観るよね?」  もちろん、と桜が頷いた。  でもたぶん、あの映画は桜の趣味じゃない。  結局3つのグループに分かれて映画を観ることになった。  俺と碧がサスペンス、女の子たちと光輝(こうき)がラブストーリー、他の男子がアクション。  幸いそれぞれのグループにスマホを持ってるやつがいたから席を予約する。  碧の分は俺が取ってやることになった。碧はまだスマホを持っていない。 「どこがいい?碧」  座席指定の画面を開いて訊く。全体にグレーで、まだまだ余裕があった。 「後ろの方の、端っこ?」  碧が俺の手元を覗き込む。  胡座をかいて座っている俺の脚に碧の脚が当たっているし、碧の肩が俺の腕にぴったりとくっついている。  さっきからずっと距離が近い。  唇の内側を噛んで、静かに深呼吸をした。 「そうだな。この前怖かったもんな」  前回映画に行った時、その時も俺と碧の2人で観ていて、碧の隣に座った男がやたら碧の方に寄ってくるから途中で席を変わった。俺の隣は女性だった。 「碧は可愛いからなあ」  そう、冗談めかして言ってみる。すぐそこにある小さい可愛い顔が、俺の方を上目に睨んだ。  なんだ、その可愛らしさは  俺を睨んだ碧の頬が、ぷうっと膨れた。  その頬を、片手で下からふにっと挟んでみる。  これぐらいなら大丈夫。  頬を触られても、碧は怒らないし嫌がらない。  頬の空気をふうっと吹き出して、アヒル口になって俺を見ている。  やばい。可愛すぎる  そっと手を離して碧から目を逸らした。  手に残る柔らかい感触。  とくとく、とくとくと心臓が跳ねている。 「じゃあ、この辺の席にしようか」  真ん中に1本通路のある座席配列。後ろから2列目の、中央通路側から2席をポンポンとタッチする。 「うん」  碧が頷いて、またにこっと笑った。    ほんとに碧が2人いるみたいだ。  俺を見ないクールな碧と、にこにことよく笑う碧。  2人の碧に翻弄されてる。  どっちの碧もすごく可愛い。  まあでも、どっちかと言えば笑ってる碧がいいかな。  そんな風に思いながら碧の頭を軽く撫でた。 「あ、そうだ耀くん。映画のあと本屋さん付き合って。参考書見たいから」 「いいよ」  どこまでだって付き合うよ。  そう思いながら碧から手を離した。  ずっと撫でていたいけれど、そういうわけにもいかない。  
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