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3
「でもさー、映画行ったりとか、これでしばらくお預けだねー」
スマホを操作する光輝の手元を覗きながら華が言った。
「そだねー。そろそろね、本気出していかないと。受験生だし」
絵梨香がふうっとため息をついて言う。
「来週からちゃんとやろっか。うるさくする人は立ち入り禁止ね」
陽菜が人差し指で口の前にバツを作りながら言った。
「あ、じゃ、おれ来るのやめる。ずっと静かに、とかムリ」
ガハハと啓吾が笑った。「じゃオレもやめときまっす」と言った敬也が陽菜をちらっと見た。
「ちかもムリかもー。だってみんな勉強するんでしょ?つまんないもん。あ、そうだ。萌ちゃん家行っていい?来週から」
いいよー、と萌ちゃんが言って、それを碧が見ている。
僕はどうしようかな、という横顔。
部屋に篭る、とか言い出しそうだなと思った。
冗談じゃない。
学校で喋らない碧を見るだけなんて、俺が耐えられない。
何て言ってリビングに居させようか。
尤もらしい理由をつけて、絶対俺の隣に座らせる。
やっと、何も言わなくても俺の隣に座るようになったんだ、碧は。
ここへきてこの距離感を手放すもんか。
通知表にはよく「粘り強く意欲的」と書かれる。
つまり俺は諦めが悪い。
碧が俺を友達以上に想ってくれる日が来るとは思えない。
思えないけど諦めきれない。
「ねぇねぇ耀くん。これ合ってる?」
碧が俺の袖を引っ張りながら訊いてくる。
「ん?」
ノートを見せてくる碧に、不自然じゃない範囲で近付く。
少し丸みのある文字で書かれた数式。
字まで可愛いな、碧は。
その数式を確認している俺の顔を、碧が見ているのを感じる。
頬がちりちりしてきた。
「…大丈夫。合ってるよ、碧」
「ほんとに?よかったー」
えへへと笑う碧の頭を撫でた。「よくできました」で撫でているふりをして。
溢れ出る恋情を抑えきれなくなったら、俺はどうしたらいいんだろう。
手を離すと碧は俺にもう一度笑いかけて席を立った。そしてタブレットを持ってきて、また俺の隣にぺたっと座った。
何か話したいんだろうと思う。距離が近い。
あと少しだった宿題を急いで終わらせて、一旦教科書を閉じた。
それを待っていたように、碧がタブレットをローテーブルの俺と碧の間に置いた。
そして土曜に観る映画のウェブサイトを開いて、また「ねぇねぇ耀くん」と話しかけてくる。
学校でも、この半分でいいから喋ってくれたらいいのに。
どうして碧は俺のことだけ避けるんだろう。
「耀くん、聞いてる?」
碧が俺の袖を引っ張って揺らす。
「聞いてる、聞いてる」
「ほんとに?違うこと考えてたでしょ」
ちゃんと聞いてよ、と腕を組まれた。
いっそ全部計算づくですと言われた方が納得がいくようなツンデレ具合だ。
こんなん落ちない方が嘘だろう。
もう本当に、ただそばで見てるだけ、なんて無理。
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