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密談
「で、アイツと結婚するのかよ」
「するけど、その前にあんたの、ギルの力を貸してくれない?」
市場の路地裏。人目にもつかないし、市場の喧騒で話し声もすぐにかき消される。
秘密話にはもってこいの場所で、昔からギルと会うときはここだ。当然、庶民になじむために私は使用人から服を借りてやってきている。
子どものときは、うちに弟子入りしていた少年から借りて男の子に変装したのが懐かしい。あのとき、路上で飢え死にしそうな子に食べものを分けてやって、こんなに長いつきあいになるとは思わなかった。
「やってもいいが、アイツになにかするのか? だとしたら、ミリアに危険が及ぶかもしれない。やめといたほうがいいぞ」
ギルが体勢を変え、かちゃりと金属が擦れた。細剣の柄と筋肉質な左腕が緑色のマントの下からのぞく。傭兵ふぜいが立派な騎士団員になったものだ。
けど、彼と私の関係は変わらない。助けてくれた恩に報いたいと、なにかと手助けしてくれる。あのころからずっと。
おかげで、傭兵の情報網をとおして裏社会を教えてもらえ、バッチア家の特にカーネルの悪事は知っている。どこからかギルが裏文書を入手してきたことがあって、字の汚さに笑ったものだ。字に心は表れるのだと。
「アイツがどんだけ危険かはじゅうぶん知ってるし、危ない仕事ばかりしていたあんたに忠告されたくない」
ひとつため息をついたギルの頬の傷が揺れた。
「おとなしくしてりゃ、亜麻色の髪の乙女なんだが……ミリアにはムリか。
で、なにをするんだ?」
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