婚約者

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婚約者

 舞踏会、当日。  バッチア家の大広間に華やかな演奏が流れるなか、私はカーネルの手が差し出させるのをおとなしい人形のように待っていた。  招待客はまだだれが婚約相手であるかを知らない。  未婚の女性たちはダンスの申しこみを受ければ婚約者になれると勘違いしていて、バカみたいにそわそわしている。「婚約者ミリア」が紹介されることが決まっているのに。それに、あんな男と夫婦になっても幸せになんかなれないのに。  カーネルが動きだし、周囲がざわつく。相変わらず優美な貴族然としていて、裏の顔は見えやしない。 「ご一緒にいかがですか」  手がしなやかに差し出された。けど、それは。 「は、はい。よろこんで」  と、手を取ったのは、見知らぬぱっとしない娘。  なんで! と、カーネルに目で訴えても、彼は私に一瞥(いちべつ)もくれずに円舞曲(ワルツ)を踊りだした。  彼の独断か。カーネルの親族とおぼしき者たちも仰天している。お父様がこの場にいたら卒倒していたかもしれない。すでに寝こんでいてくれてよかった。  けど、もしかしたら、と期待する。これはほんの余興で、最後には私の前にくるのではと。  しかし。  カーネルは私と目もあわせることなく、と発表した。  拍手喝采に包まれる二人はまるで舞台上の歌劇役者。あそこにいるはずだった私は、客席に座ったままだった。
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