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緑色のマント
「まにあったか」
緑色のマントがさえぎった。剣は落とされ、抱きかかえられた。頬に傷がある大きな男に。
「は、放してください」
「落ちつけ。助けにきた」
逃げようともがくあたしは、その言葉を聞いて、ようやく周囲の状況が変わっていたことに気づいた。
辺りは緑色のマントをつけた戦士に囲まれている。
旦那様は拘束され、なぜか男装した女がいる。
「なんだ。復讐しにきたかミリア」
旦那様が呼んだ名は――あの悪女の名!
「やっぱり放して! あの女と旦那様をこの手で」
ひっかいたり叩いたりしてみるも、とらえている腕はびくともしない。
「落ちつけって。ミリアはあんな手紙なんか送ってないし、あんたを助けにきたんだ」
「あたしを?」
信じられなくて、女――ミリアを見つめる。
「あなたにはもっと良い人と幸せな結婚をしてほしいから。私のせいでつらい思いをさせてごめんなさいね」
そう見返った彼女の亜麻色の髪は風になびいて陽の光をまとい輝いた。まるで天使のようで、あたしの毒気が抜けていく。
「カーネル。あなたの悪事の証拠や訴状を集めて、領主様に直訴しました。領主様はあなたをとらえるために騎士団を動かされました。
けど、もし、あなたが心をいれかえて、婚約披露前夜に了承したことをもう一度認めると約束するなら、ゆるしてあげたいと領主様にお願いしてあります」
堂々とした彼女に見とれていたあたしは、婚約披露前夜と聞いて、やっぱりそうなのかと、苦しくなる。やっぱり、あたしは彼女から奪った女だったんだと。
「なんのことだい。覚えてないな。
それよりも、この悪女をだれかつかまえてくれないのかい? ねえ?」
悪びれる様子のない旦那様はみっともなくて、彼への愛は冷めていく。彼はもはや畜生以下の虫螻。
と、あたしをおおう巨躯は放れ、虫螻へと剣を振るった。
「その汚い舌を切ってやりたいとこだが、これくらいで勘弁してやる。生かしてやりたがってるミリアに感謝するんだな」
細剣はソイツの頭上をかすり、頭頂の髪のみをそり落としていた。
あまりの情けない姿に、吹き出してしまう。
「私が差し出した手を拒むというなら、罰を受け償ないなさい。ものとして扱われるがいい。あなたがそうやって人々を扱ってきたように。
でも、償なったところで、ゆるされることはないでしょうけどね」
悪運尽きたことを覚ったのか、ソイツは無言になった。緑色のマントの騎士たちに連れられ、あたしの視界から失せた。
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