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1.【悲報】推しの言っていることが何ひとつ理解できない件についてwwwwwww
「や、やっと終わった…」
私は課題レポートの上であることも気にせず、勢いよく突っ伏した。
1年生の内に出来るだけ単位を稼いでおこうとした結果、課題に追われる日々になってしまった。おかげで今日は推しのSSRが登場する日だというのに、まだガチャを回せていない。
(よっし、やりますかぁ…)
私は意気揚々とスマホを取り出し、女性向けアイドル育成・音楽ゲーム『最アイ‼︎sideボーイズ』を開く。
ガチャ画面に辿り着けば、早速ガチャを回す。この日のために無料配布コインをせっせと貯めてきたのだ。一応魔法のカードの準備はあるけれど、最初は無料分に託す。
「!!」
ロードの時間が長く、レアリティがSSRであることは確定した。期待感が高まる。
私は微かに震える指で画面をタップした。
『ふぅん。ま、そこそこじゃない?そこそこ……可愛い。ってちょっと、何笑ってんの!』
「…え?うそちょっと待って待って、出たんだが????出たんだが!!!!」
私の推し、御厨立海くんの声が鼓膜に突き刺さる。 イラアドも最高で、思わず脳内でスタンディングオベーションしてしまった。
スクショをひとしきり撮り終えたら育成画面に移動し、レベルをマックスまで上げる。そして才能解放を選択した。才能解放をすることにより、アイドルのエピソードと解放後の新たなイラストが追加されるのだ。
私は胸を高鳴らせながらエピソードを再生した。
舞台はデパートのコスメコーナー。どうやら、コスメブランドのイメージキャラクターを任されることになった立海くんとプロデューサー(プレイヤーの化身である)が、ブランドのイメージを掴むべくコスメコーナーにやって来た、という設定らしい。
『わあ、高級感たっぷりだな。いつも使ってるのはプチプラコスメが多いから新鮮…!』
「くっ…可愛いかよ…」
立海くんは美容の専門学校に通っており、普段から自分でメイクをしているらしい。
この辺の設定について詳しくフューチャーされたことがあまりなかったので、好きなものを目の前にして興奮してる立海くんは珍しい。そしていつもツンツンしている分、ギャップで可愛さも倍だ。
『あ、これ!この前すごく話題になってたコンシーラー!』
「コンシーラー…?」
聞き馴染みのないワードに首を傾げてしまったけれど、立海くんが可愛いので一旦置いておく。
『こっちには限定色のティント!これちょっと憧れてんだよなぁ!』
「ティ、ティント??」
『わ!このプライマー、もしかしてトーンアップ効果がすごいってやつ?!』
「プライマー???トーンアップ効果????」
———【悲報】推しの言っていることが何ひとつ理解できない件についてwwwwwww
「いやガチで悲し過ぎるだろ…」
推しが何言ってるのか全くわからないこと、そして推しより女子力が無いことにショックを隠せない。アレは陽キャのすることだからと、今までオシャレに手を出してこなかったことを後悔した。
このままでは折角のエピソードを存分に楽しむことができない。そう思った私は、青い鳥で『立海 コスメ』と検索してみることにした。
『立海くんのエピ見ました〜恐らくこちらのブランドのコスメかと!』
『立海くんが使ってるプチプラコスメってスザンナとカンメじゃない?この前のSRイラストの背景に似たようなデザインの容器が映ってた』
有識者達の呟きが出るわ出るわ。私は画面越しに拝み倒した。
早速、エピソードに登場したブランドの元ネタブランドを探ってみる。
「うわ、めっちゃ高い!」
通販サイトで検索してみたが、どれも1000円を悠に超えるものばかりだった。さすがにこれでは買うことができないので、プチプラブランドの方を見てみることにした。
「え!全然安い!種類もいっぱいある!」
こちらは500円前後のものが多く、リップやアイシャドウは色も豊富で見ていて面白かった。
「あ、いけない。えっと、コンシーラーとティントと、…プライマー?だよね…?」
名称を忘れないように、呟きながらお目当てのものを探す。
「あ、コンシーラーあった!…へえ、これ肌の気になるところに塗るんだ」
中学生の頃からニキビに悩まされてきたため、素直に便利そうだと感心した。続いて、ティントを探してみる。
「ティント……ティント?リップじゃん!」
先程リップだと思っていたものがティントなるものだったので、驚いて声を上げてしまった。しかも中々に色の種類があるので悩んでしまう。
「うーん…。あ、これピンクだしいいかな。立海くんカラーだ」
立海くんの担当カラーはピンクなのだ。1番ピンクピンクしてる『ラズベリーピンク』を選んで、買い物カゴに追加する。
最後はプライマーなのだが。
「全然見当たらないな…」
通販サイト内で検索しても、立海くん愛用ブランドの元ネタブランドが出しているプライマーは見当たらない。
仕方ないのでコンシーラーとティントを購入して買い物を終え、ベッドに寝転がった。
「なんかやっぱりメイクって難しそうだな…」
正直、コスメの数や種類に圧倒されてしまった。
しかし、立海くんの言っていることを理解したいし、共感したい。あとJDだしそこそこの女子力を身に付けておきたい。
私は不安と期待を抱きながら、眠りについた。
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後日、届いたコスメを使って初めてメイクをしてみたのだが。
「………は?」
ティントを塗った唇は異様に鮮やかで、肌がいつもよりどんよりとした印象に見える。すごくチグハグなのだ。
それに加えて、唇の端やニキビがある箇所。気になる部分を隠すためにコンシーラーを用いたのだが、コンシーラーがよれて却って目立ってしまっている。
「これは…事故ってないか…?」
次回に続く。
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