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ネズミと僕
「君は素敵なネズミだね。」
「僕はネズミだよ、ちっとも素敵なんかじゃない。」
「そうかな。」
「そうだよ、歯は出っぱってるし、耳は大き過ぎるし。ブサイクだろう?体を交換したいと、いつも思ってるよ。」
「そうなのか。もし、それができるなら手伝ってあげたいな。君が思うような体にできたらいいね。」
「そうさ、僕は自分のことが嫌いだよ。何でネズミなんかに生まれたんだろう。もし、ライオンに生まれていたら、カッコよく吠えてみてさ、みんなに凄いと言ってもらえたのに。」
「たしかにライオンもカッコいいね。強くて逞しい。」
「そうさ。それとも、ツバメに生まれたらビューンと空を飛んで、颯爽と風を切って、みんなが見とれてくれたかもしれないな。」
「そうか、ツバメもカッコいいね。僕も空を飛びたいと思うことがあるよ。」
「そうでしょう。それと、クジラもいいよね。この星で一番大きな体で悠然と海を泳ぐんだ。みんなが尊敬してくれるはずだよ。」
「なるほど、クジラもカッコいいね。あんな大きな体をしていたら安心するよね。」
「そうだよ、なのに僕は小さなネズミだ。臭いと言う奴もいるし、毛が生えてるから気持ち悪いとか、毛が生えてないから気持ち悪いとか、どっちにしたって気持ち悪い存在なんだ。この歯も、耳も、皺だらけの手足も、細長い尻尾も、掠れた鳴き声も、僕は好きになれないよ。毎日、生まれ変わりたいと願っているんだ。」
「ライオンもツバメもクジラも好きだよ。だけどね、僕は君のことも好きだよ。僕は君のように優しくなりたいと思っている。自分勝手のようだけど、その歯も、耳も、尻尾も、鳴き声も、すべてが気にならないほど君のことを好きだと思っているよ。」
「そうかい?それは嬉しいね。でもやっぱり、僕は自分のことを好きになれないよ。この姿が変わることはない、自信が無いんだ。」
「それでもいいのさ。悩みがあれば一緒に悩むし、話だって聞くよ。僕が君の良いところを教えてあげるよ。」
「僕の良いところ?」
「そうだよ、君がライオンに憧れたように、僕も君に憧れているんだ。できることなら、君が君のことを好きじゃないことを僕は解りたい。そのことも受け止めたいんだ。だけどね、君が思うような君もいるのだけれど、僕が思うような君も確かに存在しているんだよ。だから、自分のことをそんなに責めないでほしいんだ。」
「そうか、すまないね。いや、ありがとう、、。でも、でもやっぱり僕は、、。」
「いいんだ、無理に僕を信じてくれとも言わない。君がそうあるなら、それでいい。もし、君が良ければ、しばらくそばにいさせてほしいな。」
「そうか。じゃあ今度、一緒に遊んでほしいな。遠くまで出掛けてみたいんだ。行ったことのない場所へ。」
「もちろんだとも。列車に乗ってオーロラを観に行こう。それとも、この世界で一番綺麗な夕焼けを探しに行こうか。」
「どちらも面白そうだね。それはとても遠いの?」
「どうかな、僕も分からないよ。一緒に探せばいい、たっぷり時間はあるよ。」
「そうだね、一緒に。きっと楽しい旅になるね。君となら、きっと。きっと、、。」
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