一枚の絵画

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「この絵は、とある壁画を写し取ったものだそうです。たしか、トルコ辺りにあった洞窟の壁画だと聞いております。歴史は古く、今からおよそ四五〇年ほど前のものです」 「そんなに……?」 「この絵は持ち主を転々としてきました。なぜならこの絵は曰く付きで、これまで十年と所有した者はいないのです。皆一様に口を揃えて、この絵があるとどうにも気分が優れないと言うそうですよ。四五〇年の昔から、変わらずです。こうして画廊に置いておく分には何も問題ないのですがね」 「つまり、呪われていると……?」 「それは定かではありません。ですが、この絵を買うのなら、それなりの覚悟は必要だということです」  サムエルは魅入られたように絵を見つめる。その瞳が困惑に揺れる。 「ご主人、……あなたにはこの絵がどう見えますか? 僕には、とても美しい天使が笑いかけているように見えるのです。いえ、わかっています。この絵が人かどうかも判別しがたいほどの粗い筆致で描かれていることは。しかし、僕には天使に見えるのです。僕は一目で呪われてしまったのでしょうか?」  それを聞いて、画商は驚きに目を見開く。そして絵を凝視し、 「……残念ながら、私には天使になど見えません。しかし、あなたは正しいのかもしれませんよ。なぜなら、この絵には天使が閉じ込められていると言われているのです」 「えっ」 「誰が言い始めたのかはわかりません。なんせ歴史が古く、作者もわからず、持ち主も定まらなかった代物ですからね。ですがこの絵をこちらで引き取る時、たしかにそんな話が添えられていました」  サムエルはごくりと唾を飲む。
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