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#3 ひき蛙退治・I
目の前には、異なる人間なのに、同じ作りの三匹のひき蛙の笑顔が並んでいます。
繰り返されるそれに悲哀と既視感を覚え、時緒君は項垂れたようにまた顔を背けました。
授業の回答以外殆ど言葉を発さず、仮面のように表情を崩さない時緒君を、真面目で従順、今も怯えているとお友達は踏んだようです。
「大丈夫だよ、今ある分だけで。何なら、明日とか用意できるまで幾らでも待つよ。
俺ら頭が良くてお家も立派な時緒君と、ただ友達になりたいだけなんだよ。時緒君は、俺らの憧れなんだよ。
無理強いなんかしない、ほんの、ほんの気持ちでいいんだよ。
少しでも時緒君のレべルに近づけるよう、ほんの少し、仲良しになりたいだけなんだよ」
お友達は猫撫で声で、不思議な理論をこねくります。
そのため気づいていませんでした。背けた時緒君の唇の片端が、ひび割れたように歪んでいたことを。
小さな隙間風のような音が、ひゅっと漏れました。
それが時緒君の捻れた笑声とは、お友達は感知していませんでした。
「お気の毒様……」
眼鏡が照明の光を映し、その中の眼の色は見えませんでした。
ただ、そのために却って、その下の唇の吊り上がりは、陰影を伴いお友達の目にもより鮮やかに視認されたのです。
「…………折角の頭蓋骨の隙間が台無しだ」
「……は?」
「隙間を埋める脳味噌も足らず、細やかな趣味も、女と遊ぶ甲斐もなく、
やることが、放課後のトイレでこそこそカツアゲかよ」
「……」
「仲良しになりたいって、どんな破綻だ。感心して悪寒がする。小学生の計算ミスの方が、まだ論理が通ってる。恋愛の誘いまで、奴等の方が上なんじゃないのか」
「……」
「そんな哀しいほど憐れで、滑稽なほど思考短絡も致命的な君達に……」
「お気の毒様」
時緒君は、真面目で従順ではありませんでした。
誰も近づけない頭脳のため、皮肉と厭世、口から紡ぐ言葉の、ぶすりと針のように人の自尊を突くことに、これでもかと磨きをかけた、
常備しているコンパスみたいに、尖りに尖った男の子だったのです。
ひき蛙の顔が蒼く、だけどこめかみの血管は、ぷくりと赤く膨れました。
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