炭酸は抜けきって

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スーパーでの買い出しを終えたわたしは、意気揚々と自宅のアパートに帰路に着く。得意料理の肉じゃがを彼に食べてもらおう。 彼とは大学の頃からの付き合いだ。恋人になったきっかけは、なんてことない。わたしが風邪を引いた日に、連絡して、看病してくれた。彼も大学生で、時間があっただけなのかもしれない。けれど、紳士で誠実な、優しい人だった。 最近は、お互い仕事があり、前と比べるとちょっと冷え切っている。そのことを友達と話すと、みんなそんなものらしい。だからこれが普通なのだろう。少し寂しい。その分、今日は彼と一緒にいよう。今日は彼がウチに来てくれる。久しぶりに、会える。 「ふう」 二階までの階段を上がり、玄関の前に立つ。扉の前で鍵を取り出して、扉を開けた。靴を脱いだわたしは、買い物袋を部屋にある丸いテーブルにそっと置いた。中にはサイダーも入っているからだ。エアコンを付けて、サイダーを開ける。今日も残暑が厳しい。 「さて」 彼は夕方に来る。まだ、午前中だ。少し涼んだら掃除をして、それからお昼ごはんと一緒に肉じゃがを作ろう。 クッションに腰掛け、再びサイダーに口をつける。すると、スマホが鳴った。彼だ。スマホに映った文字を見て、わたしは絶句した。 『ごめん。別れよう』 「うそ……。どうして?」 それからやりとりをするが、彼の気持ちは変わらなかった。返信も遅く、なんだか面倒臭そうにしているのが、感じ取れた。とにかく今日は会わないし、もう会いたくない。はっきりとそう書かれていた。 ☆ その夜は、ひとしきり泣いた。スマホに保存していた写真を見ては、テーブルに突っ伏し、また泣く。その繰り返しだった。 朝になると、泣きつかれたのか、涙は枯れていた。喉が渇いて、わたしは飲み掛けのサイダーを口に入れる。もう、炭酸は抜けきっていて、喉にくる、あのはじけるような刺激はなかった。もう彼はいない。退屈を少し壊してくれる、炭酸のような刺激的な時間ももう味わえないのだと気づいて、再び涙がこぼれた。 完
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