【電子書籍】勇者様の荷物持ち(番外編:邪神様の荷物持ち)【サンプル】

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 ふてくされたように言うと、草司はクルリと椅子を回して再び勉強机に向かった。  慶介はベッドの上で肘を突いて、その背中をじっと見つめた。紙をめくる音や暗記のために削られていくシャーペンの足音が重苦しく草司にまとわりついている。ガリガリとシャーペンがノートの上に足跡を刻むたびに、丸くなった背中が小さく揺れた。  草司が真剣になるのも無理はない。高校受験を強く意識する中三になって最初の中間テストなのだ。この一年間の成績が、受験の際に少なからず加味されるということは生徒間でも周知の事実だった。  窓から初夏の爽やかな風が流れてくる。日はまだ高い。普段なら昼休みの後の眠たい授業を受けている時間だが、テスト期間中は午前で学校が終わり、午後は家で自主学習となっている。だが、テスト直前の詰め込みなど無駄だと考える慶介にとってその時間は不要なものだった。だからといって街に出るのは面倒だし、自分の家にいるのは退屈だ。なのでテスト期間中の午後は、こうして草司の部屋で漫画を読んだり勉強の邪魔をしたりしている。 「そういえばお前、第一志望は鷹高だったよな?」 「……うん、そうだよ。一番近いから」  振り向かずこちらに寄越した草司の答えは、以前に訊いた時と変わらないものだった。鷹高の偏差値は普通より少し高いが、慶介の成績なら余裕で入れるくらいだ。問題は自分でも頭の造りがよくないと言う草司だ。いくら自分が余裕で受かっても、草司が受からなくては意味がない。 「……まぁ、頑張れよ」  ベッドから起き上がり、別の漫画を取りに本棚へ向かう。本棚には単行本や大きめのワイド版などいろいろな漫画が並んでいる。巻数はきれいに順番通り並べられているが、背表紙のくたびれ具合はまちまちだ。  そこに納められている漫画の数は、中学生にしては多いが、いつも遊びに来る慶介はとっくの昔にほぼ全て読み終えていた。仕方がないので、普段は全く興味のないゲームの攻略本や漫画家の画集が並んでいる一番下の段を見てみることにした。背表紙をなぞりながら端から端まで見たが、慶介の興味に触れる物はなかった。
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