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靴を履き替えている草司に、自分のランドセルを投げる。慌ててそれを受け取った草司だが、意味が分かっていないようで首を傾げながらランドセルと慶介を交互に見る。
「きょうからお前は俺のにもつもちだ。いいな?」
それだけ言うと、身勝手な任命を受け困惑する草司に背を向けてズンズンと歩き始めた。
「ちょ、ちょっとまってよ、けーすけー!」
慶介のランドセルを両手で抱えながら小走りで自分の後を追ってくる草司の姿を認め、口の端を持ち上げた。そこには、自分の思惑通りに事が進んだことに対する歪な安堵があった。
自分だったらこんな理不尽なことをされたら、ランドセルを投げ捨てているだろう。しかし、気の弱い草司にそんなことはできない。
これは鎖だ。犬のように分かりやすく鎖をつけられればいいのだが、あいにく特殊な理由がない限り人間に鎖はつけてはいけないというのが常識だ。だから誰にも、あるいは本人にすらバレない鎖をつけなければならなかった。鎖のような見るからに不気味なものでなく、もっと自然にしかし確実に自分の傍に縛り付けておけるもの……――。
「おとすなよ、だいじにあつかえ」
高圧的に言うと、草司は反射的にといった様子で、ぎゅっとランドセルを抱え直した。そのいじらしいほどの従順さに慶介は満悦の笑みを深めた。
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人はすぐには変われない、というのも真実だが、やはり時の流れとともに、人は変わる。川の流れに削られて形を変えていく石のようにゆっくりと着実に。
そして、人が変われば当然人と人の関係も変わるものだ。
学年が上がるごとに、二人の趣味趣向にさらに違いが現れ始めた。たとえば、慶介は外でサッカーやドッジボールをすることを好んだが、草司はそういったものが苦手で教室で絵を描いたり本を読んだりすることを好んだ。そうなると当然、一緒に遊ぶことも少なくなり、またそれぞれ似通った人間と関係を築き始める。
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