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入学して間もない頃は、友達を作るのが苦手な草司も慶介について回っていたが、徐々に自分と似たタイプの人間と仲を深めていった。小学三年になる頃には、昼休みに外で遊ぼうと誘っても、やんわりと断られることが増えてきた。
グラウンドから教室で仲のいい友達と話している草司を見ると、言いようのない苛立ちが込み上がってきた。そのせいで、大好きなサッカーに集中が出来ず、ますます苛立ちが増した。
頭の中が草司のことでいっぱいになる。常に人の上に立ち、他者を支配することに慣れている慶介にとって、頭の中を自分以外のものに支配されることは屈辱以外の何ものでもなかった。
「慶介! ボール!」
気づけば、サッカーボールがこちらに向かってきていた。ハッと意識を現実に戻した慶介は、内の苛立ちをぶつけるようにボールを蹴りゴールにシュートした。ボールがゴールネットにぶつかる爽快な音がグラウンドに響いた。
「やった!」
「さすが慶介!」
シュートを決めた慶介に味方のチームメイトが集まる。いつもなら心がスッと晴れやかな気持ちになるのに、教室でこちらなど見向きもしない草司を見ると、心は晴れるどころか、暗い雨雲がじっとりと立ちこめてくるのだった。
「おい、草司。外に出るぞ」
それから慶介は、草司の意志など関係なしに昼休みは外に引きずり出し、無理矢理サッカーなどに参加させた。また、仲のいい友達の元へ向かおうとすると「おい、草司!」と呼びつけ傍にいさせた。そうすることで、慶介の横には草司がいるものだと周囲に印象づけた。それが功を奏したのか、草司と仲の良かった友人たちも次第に離れていった。
草司が慶介の傍にいることが当然となったが、その位置づけが定着するほどに、草司の顔から笑顔が減っていった。
形を変えようとするものを無理矢理留めようとすれば、そこに歪みが生まれるのは当然のことだ。しかし、慶介はその歪みを正そうとはしなかった。歪みを正すことはすなわち草司が離れていくことを意味する。そんなことは耐えられなかった。笑顔なんてなくてもいい。自分の傍に置くことが第一だった。
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