【電子書籍】勇者様の荷物持ち(番外編:邪神様の荷物持ち)【サンプル】

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「けーすけ、まってぇ」  懇願にも近い必死な声で呼び止められて至道慶介は後ろを振り返った。  声の主は見ずとも分かる。いつも息を弾ませて後ろからとたとたとついてくる幼なじみの多田野草司だ。同い年だが、草司の体力は平均以下で、自然、慶介が先を進みその後ろを草司が追ってくる形となる。  草司とは家が隣同士で小さい頃から一緒にいることが多かった。今も小学校から家までの帰り道で、家が隣ということで毎日一緒に通っている。 「ったく、歩くのおせぇよ、お前」  眉間に皺を寄せてため息をつく慶介だが、実はこうして呼び止められることは嫌ではなかった。むしろ、あの追い縋るような弱々しい声を聞きたいがために普通より少し歩調を早めてすらいた。 「け、けーすけが歩くのがはやいんだよ」 「うるせぇ、オレにくちごたえすんな」  怖ず怖ずと反論する草司の頭にチョップをお見舞いする。草司は涙目ではたかれた頭を押さえながら口をきゅっと横に結んだ。  しかしこんな理不尽なことをされても草司は決して慶介の傍を離れなかった。それは慶介以外に友達と呼べる存在がいないからであったが、慶介はそのことに幼心ながらに歪な喜びを覚えていた。 「ねぇ、すこしやすんでいこうよ」 「やだ。はやくかえってライダー仮面見たいし」 「そんなぁ……」  提案という名の懇願をすげなく一蹴されしょんぼりとなる草司に、慶介は軽くため息をついた。 「しかたねぇな」  草司に手を差し出す。思いも寄らないことだったのだろう、きょとんとして手を握ろうとしない草司に焦れて、慶介は少し乱暴に草司の手を掴みとった。 「おせぇからオレがひっぱってやるっていってるんだよ」  そう言ってドシドシとぶっきらぼうに歩き出すと、やがて背後から笑顔の気配が漂った。 「ありがとう、けーすけ」  振り返らなくても草司の笑顔が脳裏に浮かんで、なんだからしくない自分の言動が恥ずかしくなった。その恥ずかしさを誤魔化すように、再び草司の頭にチョップをした。 「うるせぇ。ひっぱられてるんだからお前はイヌだ。ひとのことばをしゃべんな。返事は『わん』だ」 「えぇ~、やだよぉ」
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