つぶれる、つぶれる。

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つぶれる、つぶれる。

 頭の下が、硬い。いつのまに枕がなくなってしまったんだろう――そんなことを考えながら、私はごろんと寝返りを打った。  そこで、頬に当たる感触が柔らかい布ではないことに気づくのである。冷たい。しかも、なんだか嗅ぎ慣れない鉄臭い臭いがする気がする。床で寝ている、しかも自分の部屋ではない――ようやく思い至って、私はがばりと体を起こした。 「ど、どこ、ここ……!?」  そこは、真っ白な部屋だった。床、壁、天井、全部もれなく白い。そして正方形。きょろきょろとあちこちを見回したが、窓もなければ、ドアらしきものがある雰囲気でもなかった。  さあ、と血の気が引いた。窓もドアもない部屋に閉じ込められている、そのことにようやく思い至ったからである。 ――そ、そんなはずない。私はこの部屋にいるんだもの、どっかに出口はあるはず。  気になるのは、部屋の中心にある妙なオブジェのようなものだ。先端が尖った白い円柱型の柱のようなもの。その周囲には、四本の枝のような鋭い棘が飛び出している。  恐らく、この柱が出口を開けるギミックか何かなのだ。調べようと立ち上がったところで、私は何かにけっつまずいて転びそうになった。 「!?」  よほどテンパっていたらしい。ここで初めて、部屋にもう一人住人がいることに気づいたのだから。その人物は突っ伏したまま倒れていたが、顔を見なくてもすぐに相手を察するには充分だった。  そのピンクのカーディガン、ちょっと明るい茶髪。間違いない。 「千絵(ちえ)!」  それは高校時代からの友人にして、現会社の同僚、千絵だった。
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