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「ごめん、あたしも全然覚えてない……」
叩き起された千絵は、首を横に振って言った。
「えっと、あたしと満理子は一緒に居酒屋で飲んでたわよね?あたし、結構酔っぱらっちゃってたからその時点でだいぶ記憶が怪しいんだけど……」
「だろうと思った。そのあとお会計して、千絵がふらふらでそのままだと電車で帰るのも厳しそうだから、タクシー呼ぼうとしてたんだよ。で、電話してタクシー来て貰って、それで二人で乗った……ところまでは覚えてるよ」
「ってことは、そのタクシーがかなり怪しいのね」
「うん……」
タクシー運転手の顔は覚えていない。多分男性。いつも乗っている会社のタクシー、だったとは思う。私と千絵はよく二人で飲みに参加して、タクシーにお世話になることが少なくなかったからだ。まあ、それで時々“いろんな”ご迷惑をかけてしまったことがあるのは、申し訳ないと思わなくはないが。
今回もいつもと同じタクシーに乗ったつもりなのに、これはどういうことなのだろう。
自分達は何で、こんな真っ白な部屋に閉じ込められているのか。
「誰に拉致られたのか、何でこんなところに閉じ込められてるのとか、いろいろ怖いけどそういうのは後にしよ。私物も取られててマジでムカつくけど」
身の回りを探りながら千絵が言う。彼女も私同様、バッグは勿論ポケットに入っていたスマホやハンカチの類まで全部取られてしまっているらしい。この状態のまま放置されたら、飲み水もないため数日で干からびるのは必至だろう。というか、トイレの問題もある。そこまで監禁が長引くことはないと信じたいが、そうならない保証はない。なんせ、自分達を閉じ込めた犯人から一切リアクションがないのだから。
「とりあえず、部屋の四隅とかに仕掛けがある印象もないし、怪しいのはこの柱だと思うの」
柱というか、木の枝みたいな形の白いオブジェと言うか。とにかく、この物体だけが部屋の中で浮いているのは事実だ。
「これをどうにかすると、部屋の出口が開くんじゃないかなって……」
「あたしも同意。わけわかんないけど、なんかこの部屋変な臭いするし、長居したくないわ。さっさと仕掛けを解いて出ましょ。あたし達が部屋に放り込まれたんだもん、絶対開ける方法はあるでしょ」
「うん、そうだよね。そう信じよう」
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