推しとの接近

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「僕らの職業って、24時間365日監視されてるようなものじゃない。そう言うのにだんだん疲れて来ちゃって、結局駄目だ―ってなった自分が生きていける場所って言ったら、もう『普通の』場所以外ないと思ったんだよ。だって、『芸能人だから』って猶予してもらえるのだって、芸能科に居る間だけだからね。だから、いま騒がれちゃってるのは、今まで『別天地』に居たしっぺ返しみたいなもん」 あはは、と玲人は笑った。 「だから、高橋さんが僕のことを知っていることを気にする必要はないんだよ。むしろ、応援してくれてて、ありがとう。それなのに引退してしまってごめん、って言わなきゃいけない」 玲人が謝る必要なんてない。人生は、歩むその人のためのものだ。自分が選んでいい筈の道で、それを誰かに咎められる理由は何処にもない。 「そんなことないよ。私は玲人くんが思い描く時間を、思い描くままに歩んでくれる姿が一番うれしいの。だから『FTF』に居ようと居まいと、それは関係ない。私は『暁玲人』くんのファンだから」 あかねがそう言うと、玲人は目を丸くして、それからにこお、と笑った。 「はは……っ、あはは。『FTF』に居て欲しかった、とか、ここで放り出すなんて、とか、さんざん言われてきたから、高橋さんの考え方は少し不思議だな。もしかして、ファンの人の中には、そうやって考えてくれてた人も居たのかな……」 玲人が少し遠い目をした。今まで背負ってきたもの。沢山の期待と愛情。それらを捨ててでも、自分の道を歩みたいと思った玲人は素敵だと思う。 「居たんだよ、きっと……。玲人くんが会わなかっただけで、私みたいに考えてる子だって、少なくないと思うよ。だから、ごめんなんて言わなくてもいいんだよ」 もう一度、大事なことだから言った。今度は玲人も頷いてくれる。 「そうかな。そうだと良いな」 遠い空を見つめる先に、誰が居るんだろう。出来れば、その人も、玲人に向かって笑いかけてると良いなと願った……。
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