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正直未だに
夢の中だろう、どうせ目が覚めるだろう
とか考えてしまっている。勿論、反面ではこんなにリアルな感覚、長時間の夢なんてありえるわけないと分かっている。分かっているがそれを飲み込めるかは別問題だ。
ふと彼らの焦燥感や不安で押し潰されそうな表情を思い出した。倒れる前の事はショックからか結構朧気だが、それでもあの禍々しい赤い雲と彼ら、いや王太子と名乗った彼のあの表情が忘れられない。
状況的には一刻も早くその力とやらで解決して欲しいだろうが、それはこちらの世界の事情だ。
召喚とやらには時間や人手がかかるとか言っていた気もするし、現に今は十分に広い部屋(そう言えば目の前の優男は手狭とか言ってた気がするが、それでも20畳以上はありそうだ)を使っている。
つまりはそれなりに大切にされるらしい事からも、今は勝手に連れて来られた俺には関係ないと言えるだろう。
「それは、承知しております。王太子殿下からは1週間程ゆっくりお休みして頂くよう仰せつかっております。」
「そう…ですか。」
時間が欲しいと伝えた俺をまたもや予想していたのか、1週間は落ち着いていられる猶予があるらしい。
なんでもかんでもお見通しか?
腹立たしい気持ちを感じながらも、乱暴に扱われるよりはいいかと持ち直す。現に俺には頼れる人も居なければ、身を守る手段もない。
もちろん現代社会に生きていた若者、力技は得意なわけ無い。
「はい。出来る限りの事は致しますのでご要望があればお聞かせ下さい。」
「なら、それなら…。」
この世界の事を簡単でいいから教えてほしい、
そして俺が抱えるある問題を伝えなければ、と口を開いた時。
またもや腹からぐううう、と先程よりも大きめに音が響いた。
「まずはお食事をお持ち致しますね。何に致しますか?」
「ぅ、お、おにぎりを。飲み物はこれの冷たいやつがいいです。」
恥ずかしすぎる。
「オハシもご用意致しました。本来は手掴みでお食べになるとの事ですので手拭きもご用意しております。どうぞお召し上がりください。」
「あ、りがとうございます。」
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