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しゃくり上げながらも、聖女様という呼び方をする男を睨む。こちらを心配しながらも困惑して揺れる瞳は、陳腐だがエメラルドに似てキラキラとしていて、光なんて室内の照明しかないはずなのに、その緑の瞳とより深い緑色の髪は輝いて見えた。
それでも今はその揺れ動く輝きでさえ憎らしい。
ボロボロとこぼれ落ちる涙は止まらず、息も荒くなる。
先に沈黙を破ったのは男の方だった。揺れていた瞳は、今度は戸惑う事なくこちらをしっかりと見つめていた。
「聖女、様…いえ、ユウヤ様。申し訳ありません、お名前もお呼びせずに居た御無礼をお詫び申し上げます。喉は、かわいていませんか?」
「かわいた、けど。」
「お飲み物を準備しています。お飲みになられますか?」
「のむ…飲みます。」
「どうぞ。熱いのですのでお気を付け下さい。」
「……ありがとうございます。」
飲むと答えた瞬間にはもう目の前にほんのり暖かいお茶が差し出さる。
早すぎて驚く暇もない。ふと見ると、優男の後ろに前も見た小さめのカートがあるらしくなんと事前に準備しておいてくれたっぽい。
口をつけるとほのかな苦味を感じ、今度は緑茶の様だ。
なんだかんだ俺は1番これが落ち着く。
落ち着いて一旦泣き止んだとはいえ、先程まで幼児よろしく泣き叫んだので未だしゃくり上げるのが止まらず腹立たしいような恥ずかしいような。
タメ口で喚き散らかした後なので手遅れに感じるが一応敬語で喋っておこう。
若干顔に熱が集まるのを感じつつ、緑茶を飲んでほっとした俺を見て、優男も肩の力が抜けたようだ。子供や愛しい者を見る優しい目つきをしている。
「あの、」
「はい、なんでしょうユウヤ様。」
「怒鳴ってしまってすみませんでした。あとお茶、ありがとうございます。」
「いえ、とんでもございません。お気に召したようでなによりです。お食事はどうなさいますか?」
優しく問われ、さらに恥ずかしさを感じながら胃に意識を向けると若干すいているかなと思った時。
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