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空気を読んだようにやや小さめな音でぐぅ、と腹がなった。目覚めからどんだけ恥ずかしい思いをしたらいいんだろうか。
……顔から湯気が出そう。
「その、どういったものなら用意出来ますか?恥ずかしながら偏食気味なもので…。」
「この国のものはまだ見た事がないと思いますので…。出来る限り再現したもの、になりますがこちらがこの世界で用意できるそちらの世界の食べ物にございます。」
「世界……。」
そう言って手渡されたのはやけに上質な手触りの表紙で、いかにも高級品ですといった雰囲気のメニュー表ぽいものだ。おにぎりから始まり、魚の塩焼き、味噌汁、などなど日本の定番からハンバーガーやポテトフライ、カレーやパスタなどが数ページ分記されていた。たぶん15食も無いだろうが、もどきでも食べ馴染んだ物をこれだけ選べるのは有難い。特に今どきの子が好む欧米食が多い。
その事に仄かな希望を覚えたが、さも当然の事みたく言われたこちらの世界、という言葉が重い石になって俺にのしかかった。
そうか、こちらの世界、なのか。
優男は自分の言った言葉に気付いたのか表情を歪め、申し訳ありません、と呟いた。
俺以上に悲痛な表情を浮かべる彼のその存在が、逆に信じきれていなかった現実を受け止めさせたらしい。
すとん、と思ったよりも簡単に胸に落ちてきた事実に、またほろほろと涙が出た。
また泣き出した俺に彼はぎょっと目を見開いてより慌てているらしく、一歩下がって跪き頭を下げたまま謝り続けている。
「申し訳ありません!貴方様のお気持ちを考えずに言葉を…!」
「いえ、いいえ、もういいんです。もういい。顔を上げてください。
……謝られたって帰してもらえないんでしょう?」
「それは…。」
ぐ、と言葉を詰まらせている。図星以外のなにものでもない反応だ。ゆっくりと顔を上げた彼は先程とは変わり真剣な顔をしている。させている人間が言うのもなんだがよく表情が変わる人だと思う。
「やっぱりそうなんですね。でも申し訳ありませんがまだ話は聞けません。聞いても理解出来る状態じゃない。」
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