世界はそれを愛と呼ぶんだぜ 信二side

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そんなある日のこと。 俺はひとり、窓際の席で昼食をとっていた。 何を食っていたかはもう忘れてしまったし、いつもは仲の良い友人と一緒に昼食をとるのに、どうしてその日に限ってひとりだったのかも遠い記憶で定かではない。 とにかく俺はひとりで昼食をとっていた。 そのとき、あんなに俺を嫌っていた弘毅が、俺のそばへ歩み寄り、話しかけてきたのだ。 え? えええ??? その第一声は今でも覚えている。 「山本。今度の試合の対戦相手聞いたか?赤城高校らしいぜ?」 あのときは本当に驚いたものだ。 天と地がひっくり返ったのか、もしかして雪が降るんじゃなかろうか、と思った。 しかしその驚愕よりも、喜びのほうが勝っていた。 (鹿内のヤツ、そんなに赤城高校との試合に勝ちたいのか。俺なんかに話しかけるほどに。) と、その時はそう思った。 俺に話しかけたのも、そんな弘毅の気まぐれな行動のひとつなのだと。 何にせよそれは俺にとって天からの恵みのような出来事だった。 この会話をきっかけに俺は弘毅との距離を縮められたら・・・そう思っていた。 そんな俺の思いが通じたのか、はたまたどういう心境の変化なのか、その日を境に弘毅の方から積極的に俺に話しかけてくるようになったのだ。 弘毅から「おはよ。山本。」と言われたときは、心臓が止まるかと思ったものだ。 クラス一騒がしい俺と、クラス一無口な弘毅。 そんな俺達が仲良くなっていくのを、クラスメートが興味深く眺めているのを知っていた。 弘毅の親友となった俺に、弘毅を好きな女子から鹿内君に渡してほしいと、ラブレターを請け負うことも多々あった。 (さすが弘毅、相変わらずモテているなー)と、俺は若干の羨望を持って弘毅にそれを渡した。 すると弘毅は俺の目の前で、そのラブレターを破り、なんのてらいもなくゴミ箱へ投げ捨てた。 「おい!一生懸命書いたラブレターだぞ?せめて読んでやれよ。」 俺はそう弘毅をたしなめた。 すると弘毅は怒りをあらわにした表情で、こう吐き捨てた。 「は?お前を利用してこんなものを渡す女なんかに、気を使う必要なんてあるか?」 俺が鹿内弘毅という男を惚れ直した瞬間だった。
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