世界はそれを愛と呼ぶんだぜ 信二side

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それにしても一体どうして弘毅は突然俺に近づいてきたのだろう? それは俺の長年の疑問だった。 しかし弘毅に直接聞いたことはなかった。 はて、何がきっかけだったのだろうか? 俺は遠い記憶を呼び覚ましてみた。 弘毅が俺に話しかけてきたのは、学園祭の翌日のこと。 それはハッキリと覚えている。 俺達は高校2年生で、あのときクラスの出し物は、たしかお化け屋敷だった。 俺は戸板で作った墓石の陰から紐でぶら下げたこんにゃくを、客の顔に触れさせて脅かす役目だった。 そして弘毅はドラキュラ伯爵に扮していた。 女子が格好いいと騒いでいたから、それも確かな記憶だ。 弘毅が初めて俺に話しかけてきた時、ちょっとした違和感があった。 どうしてだろう? なにかが引っかかった筈だ。 弘毅と赤城高校野球部の話をして、それから学園祭の話題になって・・・そうだ! あの学園祭にたしかつぐみも真理子さんと一緒に来ていたんだった。 お化け屋敷につぐみが迷い込んで、震えるつぐみを俺が抱きとめてあげたんだっけ。 あのときの事を弘毅はえらく気にしていた。 そう。女に興味がない弘毅が、あの日のつぐみの行動に強い関心を持っていた。 ・・・え? ・・・もしかして・・・そういう事なのか? 弘毅・・・お前はあの頃から、つぐみを?? 「はははっ!」 なんだ!そういうことだったのか?! それでお前は俺に近づいてきたんだな? でも・・・きっかけがどうであれ、アイツと俺の絆が変わることなどない。 だってお前は俺を利用なんてしなかった。 もちろんつぐみとの縁を繋ぎたかったというのはあるだろう。 けれどお前は一度だって俺につぐみと会わせて欲しいなんて言わなかったし、いつだって俺と誠実に向き合ってくれた。 俺はあんないい男と、親友になれた。 それは全部、つぐみのお陰だったのか。 そして弘毅はつぐみとの出会いのチャンスを、自分の一途な想いと強運で掴み取ったのだ。
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