33人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の新しい新居は、山本家の最寄り駅から二駅離れたところにある、築30年の中古マンションだ。
築年数は古いが外壁工事をしたばかりだそうで、それなりに見栄えがする外観だ。
新聞の勧誘や営業の相手をして時間を無駄にするのが大嫌いな俺にとって、オートロックは必須項目だった。
立地は近くに公園と神社があるくらいの閑静な住宅街。
徒歩10分で着く駅前には、コンビニやスーパー、チェーンの飲食店などがあり、買い物には困らない。
俺はマンションの下見の帰り道で、小さな喫茶店を見つけた。
店の名前は「bear」
その店名どおり、店の中はクマの小物だらけの店だ。
クマのぬいぐるみは勿論のこと、時計、皿、カップ、などいたるところにクマのイラストがついている。
クマ模様はつぐみのお気に入りだ。
つぐみが俺の部屋を訪れた時は、絶対にこの店に連れていってやろうと思う。
きっとつぐみは喜ぶだろう。
・・・俺はいつもつぐみが喜びそうなことばかり考えているな。
そう思い、苦笑した。
男一人で入るには少し気恥ずかしかったが、思い切って店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ~。」
マスターらしき赤い眼鏡の男性と、ウエイトレスの若い女性が笑顔で出迎えてくれた。
赤いソファーの椅子に白いテーブルが並んでいる。
俺は窓際に座り、いつものようにレモンティーを注文した。
窓の外では子犬を連れて散歩している老婆が見える。
子犬が早く行きたいとでもいうようにリードを引っ張っていて、どちらが主導権を握っているのか判らない。
その子犬を見て、おもわずモモを思い浮かべる。
モモがいなければ、つぐみと仲良くなるのに、もっと時間がかかっただろう。
モモには、しいてはマルコに感謝しなければならない。
つぐみはマルコがまだ生きていると知ったら怒るだろうか?
いや、きっと笑って許してくれるに違いない。
さて、つぐみにどうやって俺の想いを伝えよう。
俺は店内で一番目を引く、ひときわ大きなクマのぬいぐるみに目をやりながら、考えあぐねた。
最初のコメントを投稿しよう!