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弘毅がつぐみに恋しているのではないかと思うようになったのは、弘毅がつぐみの家の居候になってすぐのことだ。
「つぐみちゃん、俺の彼女役を引き受けてくれたよ。」
弘毅は大したことではない風に無表情でそう俺に告げたが、それが嬉しくて仕方がないと思っていることは、その緩んだ口元を見れば一目瞭然だった。
「え?あのつぐみがか?弘毅、お前どんな魔法を使ったんだ?」
「俺が女に付きまとわれて困っていると話したら、つぐみちゃんが『私が彼女のフリしてあげましょうか?』って言ってくれたんだ。つぐみちゃん、優しい子だな。」
・・・つぐみが自らそんなことを提案するわけがない。
きっと弘毅がなにか策を講じたのだろう。
しかし、俺はそれを問い詰めることはしなかった。
そして俺が弘毅のつぐみへの恋心を確信したのは、弘毅が珍しく俺に頼み事をしてきた時だ。
弘毅は俺の前にディズニーリゾートのチケットを4枚差し出した。
「信二。バイト先でこのチケット、貰ったんだ。お前、シーとランド、どっちに行きたい?・・・まあどっちでもいいんだけどさ。」
そう言って弘毅は俺の目を悪戯っぽく覗き込んだ。
「うーん。ランドは行ったことあるから、シーかな。」
「じゃあこれやるよ。彼女と行ってくれば?」
弘毅はディズニーリゾートのチケットを2枚、俺に手渡した。
「え?いいのか?」
「その代わりと言っちゃあ、なんだけど・・・」
弘毅は手元のディズニーリゾートのチケット2枚も、俺の手に押し付けた。
「ディズニーランドに俺とつぐみちゃんが一緒に行けるように、信二がお膳立てしてくれねーかな?」
「普通に自分で誘えばいいじゃん。」
「誘って断られたら、俺、立ち直れないよ。な、頼む!」
照れ臭そうに笑いながら、弘毅は俺に手を合わせてみせた。
ははあ。こいつ、本気でつぐみに惚れてるな?
さすが俺の姪っ子。この女嫌いの弘毅をこんな短期間でメロメロにしてしまうなんてな。
俺はそんな謎の優越感を抱きながら、弘毅の肩を叩いた。
「おう!俺に任せとけ!!」
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