世界はそれを愛と呼ぶんだぜ 信二side

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俺は高校に入学すると、小学校から続けていた野球部に迷わず入部した。 俺のポジションはイチローと同じ外野手だ。 リトルリーグのときから鍛えてきた肩の強さには自信があった。 打者としても持ち前の負けん気で、ここぞというときは必ずどんな手を使ってもチームが点を取れるように技を磨いた。 それがバントでも犠牲フライでもチームの為になるのなら、なんでも良かった。 俺は1年でレギュラー入りを果たした。 そんな俺にも敵わないと思うチームメイトがいた。 そいつの名は鹿内弘毅。 俺と同じく1年からレギュラー入りを果たした、エースピッチャー。 無口だが野球への情熱は、その瞳や行動を見れば一目瞭然だった。 誰よりも早く練習を始め、普段の無口さとは一転グラウンドでは的確な言葉でチームメイトを励まし、グラウンド整備や道具の手入れを誰が見ていなくても黙々と行っていた。 さらに弘毅は校内一のイケメンだった。 女子の間では弘毅のファンクラブがあるとまことしやかな噂があるくらいヤツはモテていた。 しかし弘毅は極度の女嫌いでも有名だった。 一時期なんの気の迷いか何人かの女子と付き合っていたらしいが、どの相手とも一か月ももたなかったらしい。 それでもそんなミステリアスな魅力の虜になる女子は後を絶たなかった。 誰に何を言われても決して動ぜず、孤高の道を進む、俺とは正反対な性格だが、なんとなく俺と同じスピリッツを感じていた。 俺は鹿内弘毅という男に一目惚れし、ことあるごとに声を掛けた。 しかし弘毅の反応は薄く、「ああ」や「そう」など短い言葉で会話が終わってしまう。 友達が多くコミュ力には自信がある俺でも、この鹿内弘毅の懐に入り込むことがなかなか出来なかった。 2年になりクラス替えで弘毅と同じクラスになった。 俺は以前にもまして、弘毅に声を掛け続けた。 しかし弘毅は変わらず、俺に塩対応を続けた。 塩対応というよりは、避けられていた。 俺の顔を見ると、まるで毛虫を見つけたような表情を浮かべる。 アイツは俺を嫌っている・・・鈍い俺でもそう理解するのに時間はかからなかった。
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