縄文人寄りの男

1/1
前へ
/32ページ
次へ

縄文人寄りの男

「三並さん、入るよ?」 「いや、もう入ってきてるけど?」  ベッドに寝転んで雑誌を眺めてたナオくんは、どっちかっていうと縄文人寄りの男くさい顔に苦笑いを浮かべて、のっそりと上体を起こした。  この人は今から俺に抱かれる。  小柄なアイドルみたいな俺に、好きなようにされるんは滑稽極まりないと薄く嗤いながら。 「寝といてええのに。……どうせ、横になるんやから」  言うが早いか、俺より大きなその体を押し倒してのしかかるんに、ナオくんは今度ははっきりと、溜息とともに迷惑そうな声をあげた。 「俺、明日、朝番やねんけど」  なら、俺のメールに鍵あけて待つなんて、せんかったらええのに。  そう思ったけど、まあ、断れんだけかと、自嘲がもれた。 「やったら……一回で堪忍してあげるわ」  困ったような顔。  困ったような溜息。  もうここ数年。俺に向けるのはこんな表情ばっかりや。  痛い。  苦しい。  けど。  逃がさへんよ? 「ん……あかんて……小柳……」  耳に唇を這わすのに、ナオくんの体が小さく震える。  この先、自分の身に起こることなんてもう十分すぎるほど知ってるくせに、それでも、最後まで抗おうと俺との間に差し込まれる腕は、俺の心をどこまでも拒否するようで、やっぱりむかついて、その手をとると顔の両脇に縫い付けた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加