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心の天秤やな
「はぁ。熱ぅ。オロナミN飲んでええ?」
「もう飲んでるやん……うー……ケツ…が…痛い…。しつこいねん。俺、仕事やいうたのに……」
「ええー、ナオくんが欲しがったんやん。一回は嫌やて」
「はあ!?」
「名前、呼んでくれたら一回でって、俺言うたやろ?で、呼ばんかったってことは、な?」
「な、やあるかっ」
ナオくんは、ベッドから後ろ手に片肘をついて少しだけ体を浮かすと、俺の手にあった茶色の瓶を怒ったように奪っていく。そしてグッと呷ると、すぐ様、空やんかっ!と悪態をついて、ベッド脇のゴミ箱に向けて投げた。
空瓶は、ほんのちょっとゴミ箱にかすっただけで床に転がってしまう。
さみしく転がり止まる瓶が、虚しさを体現してる。
まさに、俺みたいや。
「あーあー。寮監さんが散らかしたらあかんわ。俺ら生徒に言えんよ」
掬い上げる空の瓶。
俺のことも、誰か救ってくれんかな?
「ここは俺の部屋やからほっとけ。……何そんなもん凝視してん?」
「ん?……いや、これ、よう見たら突っ込める形状やなぁ、思て」
「はぁ!?……あ、ああ。そうやな。うん。入るよ。入る。ゴミ箱にな。そんで、ちゃんと分けて捨てたら、再生されるわ。うん。きれいに捨てよ。未来の為にな。よこせ小柳。自分で捨てるから」
───小柳。
俺のことを小柳と呼ぶようになったときの息苦しさを、俺は忘れてへんよ?
それでも俺は。
あんたを解放するなんて、でけへん。
どうせ脅迫まがいで始まった行為なら、いきつくまでやと思う自分と。
これ以上、邪険に思われるのもどうよって思う自分。
せめぎ合い。
揺れる天秤。
「こら。その無表情怖い。こっちを見るな」
「え? そんなん、どうしようかな」
「は?」
「うーん」
「……はあ?」
「や。せっかく、なあ」
「なあって何!? せっかくて、何があ? おまえなぁ、ほんま大概に……っ、…おい…」
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