ミスコンテストとかいわれても

1/1
前へ
/32ページ
次へ

ミスコンテストとかいわれても

「こーやなーぎくーん。あーそーぼ」  おちょくったようなノックの音と小学生みたいな呼びかけの文句。  ため息混じりに渋々身を起こす俺の横では、寮で同室のイトがPSPの画面から目を逸らしもせんと笑ってんのにムカつく。 「小柳くんは遊びませんし、ミスコンも出ませんが」  ドアの向こうに立つ、背の高いその人の顔の位置まで考えてドアを開けながら、さっきの声かけへの返事とともに、言われるだろう言葉を想定して先に答える。  で、目に入ったのは頭頂部  あ。目測間違えた。 「意外に小さかった」    俺の発した言葉で理解したんか、生徒会役員であり文化祭実行委員の嶋本一来(しまもとかずき)さんが裏手ツッコミを入れてくる。 「いやいや、今の自分の目線、ニメートル級の人間に向けるそれやから」 「一来さん態度デカいから、なんかそれくらいかと思って」 「いや、俺3年ね。そんなら自分、3メートル級やからな。ほんま可愛らしいわ。はい。サイン頂戴」  俺の言葉はこの人には何割か通じんらしくて、ミスコンのエントリーシートを押し付けてくる。  うちの学校は男子校で、一般公開の学園祭には毎年ミスコンがある。  男ばっかりやけど、その分人数が多いから中には可愛い奴もおるわけで、一年とかやと、まだ毛も生えてないのも普通におるから、女装に違和感ない奴は一定数おるわけや。  ええ客寄せになるらしいそれは、最早伝統行事。  ただ、春に卒業してもうた3年連続でミスの人が、ほんまに綺麗でネットでもまあ騒がれてたから、在校生の綺麗どころ? の本命ラインが皆嫌がってるらしく、今エントリーしてるのはゴリラばっかりで、今年はイロモノのキワモノ路線かな、って話や。  ところがその伝説のミスは一来さんの元カレって噂があって、卒業を期に別れたとはいえ「元カレ」──一来さん曰く「尊敬する先輩」の残した栄光あるミスコンを自分の代でボロクソにしたくないと、キュートな俺はこの実行委員にメタクソに絡まれてるわけや。 「あ、そういやイトが出るって言うてましたよ。美脚を披露したい言うて」  我関せずと、傍観者にすらなってないイトにふったら、イトは若武者みたいな男前の顔をわざとらしくしかめて笑ってよこした。 「そうしたいん山々なんやけど、役員は出れへからなぁ」  こいつは、こういうやつや。  入学前から情報をつかんでたらしく、早々に生徒会にコネを持ち、役員になって受難から逃れやがった。  爽やかを装って、なかなかあざとい。 「そうそう。で、まあ是非きみに……て、ちゅうか、そーや。おい、こら、イト! 先輩があちこち回って出場者探してんのに、お前なに呑気にクエストしてんのん? お肉上手に焼いてる場合やないよ!? ちょっと今から一年回って探してきなさいっ」  あからさまに嫌そうな顔するイトに、一来さんはプンと頬を膨らました。  どっちかていうと細目で精悍な顔してるから、可愛らしい表情しても似合わんすぎる。 「同室の相手すら口説き落とせんてどないなってん。そんな使えん子は、会長に言うてコンテスト出れるようにしてまうよっ」  一来さんのその言葉にイトははじかれたように身を起こすと、敬礼の真似事して行ってきます! と部屋を飛び出してもうた。  は?  あまりの素早さに愕然とする。 「あ、ちょ! イトっ!」  それはアカンやろっ!  おまえがおったから俺ドアあけたんやぞ!?  いきなり我が身に降りかかった危機に気付いた俺がドアを締めようとしたのより、一来さんのスリッパがドアの隙間に突っ込まれた方が早かった。  敗因は、そのままドアを押してやろうかと一瞬逡巡したことや。  さっさと押しとけば良かった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加