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欲しいのはあの人
「お邪魔さん」
ドアの隙間に膝が入れられ、あれよあれよと言う間に一来さんが侵入してきた。
「勝手に入ってこんでください」
押し返す腕はそのまま掴まれ、その胸に抱き取られてしまう。
男子校、男子寮という監獄育ちの高校生のくせにどこでそんな技を体得したんか、次の瞬間俺は、ベッドに寝っ転がって天井を見上げてた。
「あーそーぼ?」
天井が、一来さんのまあまあ整った顔に隠される。
「遊びませんし」
「ほんまに、テンション一定よね。『いや、先輩、堪忍してぇ』とかウルウルしてみて欲しいわぁ」
俺の手をベッドに結わえつけたまま、眉を八の字にする一来さん。言われた通りの反応みせたら、速攻イタズラされるやろうなぁ。
「何回も言うようですが、俺、タチウケでいうとこのタチですし。一来さん、それ尊重する主義言うてますよね?」
淡々と接する。
それがこの人への対処法としてかなりは有効やってのはもう学習済み。
この人は、半泣きで拒む相手をドロドロに溶かして取り込むのを好物としてるからな。
ヤラれた方も結局性に興味あるお年頃やし、好き放題やってるようやのに退学になってもなくて、訴えられてないとこみたら、まあ、そうとうエエんやろうけど。
ま。俺はごめんやわ。
案の定、にゃーと唸り、両手で顔を覆って泣く真似して、俺の肩に手で覆った顔を擦り付けた。
「言うてるけどさぁー、コヤりん、絶対ウケやもんっ! こんな可愛らしいのにタチなんてそんなん間違ってるっ」
「性癖やからね、しゃあないですわ」
ほんまは───
違う。
タチウケ以前に、俺がオトコ相手に欲情すんのは、あの人だけや。それを証拠に、男子校におっても何らテンションあがらんし。
俺が欲しいのはあの人だけ。
あの日。
あの人が兄貴と絡んでるのを見たときから。
俺はもうずっと。
あの人に占められてる。
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