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2月が終わろうとしていた。
まだ春は遠い。でも、真冬とも言い難い。
あんなに真っ白で綺麗だった雪も、段々と汚れを被って薄汚れていく。
職場の観光案内所も、徐々にディスプレイを冬から春に差し替えているところだった。
初恋の人が遠くに行ってしまっても、季節は巡る。
考えてしまって眠れない夜も、いずれは朝が来る。
そうして、思い出にして生きていくしかない。
あれから、階下のおばあちゃんに甘酒をご馳走になったときは、ぼろぼろと涙が零れてしまっておばあちゃんをびっくりさせてしまった。でも、その次のときには涙は出なかった。――そうやって、慣れていくしかないんだと思う。
大塚さんの指示のもと、脚立に乗って雪だるまの飾りつけを外している時だった。
案内所の入り口がカラカラとなって、戸口に人影が見える。
あの長身は。
それを、彼のものと認識した心臓が突然全力で動き出す。
――黒い髪に、がっしりした体つき。彼じゃない。
彼と近い身長の人が来るたびに、心臓が誤動作するのだから困ってしまう。
「いらっしゃいませ、ただいまお伺いします」
脚立を下りて、受付に向かう……訪れたのは、見覚えのある男性だった。
「どうも。佐伯さん」
笑顔で頭を下げてくる、凛々しい眉にすっきりとした目の男性。
「……あれ?あ、宅配の……?」
私があまり自信ない口調で言うと、照れたように笑って、再び頭を下げた。
そうだ。うちによく荷物を運んでくれて……一度、結城くんと鉢合わせした、あの宅配のお兄ちゃんだ。
今日は私服――ショートコートにマフラー、ジーンズだから、なかなか認識できなかった。
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