冬の間

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 流れからして、受け取るべきかなと、私はひとまず手を伸ばした。  男性は、周りの視線を憚るように、小声で言った。 「これ、個人携帯の番号なんで……もし、よければ、連絡下さい」  ……荷物を、出すときに?  名刺を受け取った私に、ちょっとほっとした顔を見せて、 「急に職場にお邪魔してすみませんでした……自宅でこんなの渡したら、怖いだろうなと思って……あの……ほんとに、よければなんで」  手を上げてみせて、宅配のお兄ちゃんは大塚さんにも挨拶をして去っていった。  ガラス戸が閉まって、お兄ちゃんの姿が見えなくなる……と、大塚さんが慌てた様子で駆けよって来た。 「円ちゃん!あらあら、また言い寄られちゃって」 「……また?……言い寄る??」 「ときどきこういうのあるのよねー。さすが、ミス枝豆。まぁ、円ちゃんはそう簡単には靡かないんだけどねぇ」  自分が胸を張って、大塚さんが頬に手を当てている。  私は渡された名刺をじっと見て……雷に打たれたように顔を上げた。
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