邂逅

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「ありがとう。私の名はウォルター。あちらが"忍耐"の大天使ヨアキム、"節制"の大天使セシリア、"慈善"のクラレ、"謙虚"のアグネス、"勤勉"のテクラ、そして愛しの我が妻"純潔"のイルムガルド……」  ニコニコとウォルターが天使たちを紹介していく。そしてまたマツリたちに向き直り、 「何しに来たかというと、あなたたちを討伐して日本の宗教を私たちの宗教に統一するよう、命令が出されて来たのです」 「……はあ⁉︎勝手な事言わないでくださる⁉︎」  マツリが怒ると、ウォルターは頷く。 「そうですよね。嫌に決まってますよね。我々の目から見ても、あなたたちが人に害をなしている存在に見えなくて、どう対処しようか考えていたんです」 「害って……俺たちは人間と上手く共存してきた方なんだぞ‼︎」  雷羅が歯を剥き出して唸る。 「亥狸子なんかまだ若いのに、健康の神様やってるし、炎人は学問の神様もやってる!マツリもミンミンも島根の氏神として祀られてんだぞ‼︎」 『私は?私は?』 「インチキ僧侶やってるだけだろが!明らかにてめぇが害ある存在だ‼︎」  茶々を入れるクレイシャに怒鳴り付ける雷羅。ウォルターはふむ、と口髭を撫でた。 「なるほど、本当に神様をやってる者もいるんですね? 我々の武器は、人に害なす者にしか効かない。どんな形であれ人々にありがたがられた存在に攻撃ができないんですよ」 「……つまりさ、あなたたちのところで言う悪者に見えないから、排除どころか攻撃さえできなくて困ってるってことなんでしょ?」  亥狸子が冷たく言い捨てると、ウォルターがウォルターが弱ったなぁという具合に後頭部に手をやる。 「利発なお嬢さんだ……でも何もしない訳にはいかないんですよ。 そこでですね、今まで通り神様でいて大丈夫ですから、どうか、我々の仲間になって、日本の皆さんを"正しい教え"に導く手助けをしてくれませんか?」  言われた亥狸子たちはキョトンとしたが、マツリはまだ敵意を剥き出して噛み付く。 「お断りですわ!何が"正しい教え"ですか!あなたたちにとって正しいだけで、この国の人たちの正しさはまた別のところにありますのよ?それを無理強いなんてできませんわ!」 「我々の神は絶対に正しい。お前たちよりもずっとお強く、揺るぎない存在なのだ。好き勝手に生きている存在よりずっと、人々にとってはありがたい拠り所になれると思うが?」  鉄槌を持っていた天使がマツリに冷淡に返す。ウォルターが宥めるように声を上げた。 「ヨアキム、彼女たちの主張もまともだよ。誰だって信じるものを否定されて鞍替えを指示されたら嫌に決まってる……」 「生ぬるい手段を取っていては、日本の人々のためにもならないだろう。どっちにしても、もうじきこの者たちは消え失せる運命にあるじゃないか!」  鉄槌の天使ヨアキムの言葉が、沈黙を呼んだ。やがて狸沙子が、 「き、消え失せるって何の話……?」 と恐々聞いた。
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