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「……貴方は、書類を整理しに会社に戻ってくると思っていました。
夕方の件、もう一度、きちんとお話したかったんです」
ロープと格闘しながら、ぽつりと彼は答えた。
でも、社長室に明かりつけていたら、自分がいるとわかってきっと帰ってしまう。
だから、卓上ライトだけで仕事を片付けていた。
そう話してくれた。
「………そう」
いつものように短く返事をする。
でも、そこまで真摯に受け止めてくれていたことに驚きを隠せない。
再び顔を見ると、今度はその瞳が悲しそうな色をしていた。
「…間に合って、良かった……」
「…え?」
「社長がまた辛い思いをする前に、気が付けて本当に良かったです…」
俺の頬を褐色の大きい手が優しく撫でる。
「…っ」
温かい。落ち着く。
思わず瞼がゆっくりと閉じる。
(…なんでこんな気持ちになるんだろう)
この人に触れられると、ひどく安心する。
やましい気持ちとか、裏とか無いんだって何故か思えてくる。
業務中はあんなに疑ってしまうのに。
ぬくもりを感じると、そんな負の感情はどこかへ行ってしまう。
(あぁ、そうだ…)
前に抱かれた時もそうだった。
本当に、なんで、こんなこと今まで思ったことなんて…。
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