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起きましたか。
意識の覚醒と同時に聞こえた声に、角元は一瞬自分の状況を見失っていた。
ガタガタと揺れる振動と、モーター音。視界は薄暗く、前方を照らすヘッドライトが道をぼんやりと照らしていた。
ここは何処だとぼんやりとした目で周囲を見渡すと、右側の運転席の男が「大丈夫ですか?」と声をかけてきた。
そこで角元はやっと彼が、会社の後輩である佐々木であることに気付く。取引先との飲み会の送迎を佐々木に頼んでいたのだと。
佐々木は入社当時から、角元に懐いていた。悪い気はしないし、面倒な頼み事も笑顔で引き受けてくれる愛嬌ある後輩だ。だから今日も、終電を逃すと予測できる接待に佐々木を呼び出していた。
「あのクソオヤジに、死ぬほど飲まされた。アルハラって言葉知らねーのかよ」
思い出すだけで、憤りが喉元にまで込み上げてくる。ついでに吐き気までしてきて、角元は窓を開けた。
湿った風が流れ込み、少しだけ気持ちが落ち着く。
「大変でしたね」
「お前もいつかは、同じ目に合うんだよ」
呑気そうな後輩に対し、角元は口元を緩めた。
自分の下についている以上は、仕事を引き継ぐことになる。面倒な顧客は全部、佐々木に押しつければいいと考えれば、少しだけ愉快な気にもなっていた。
「ところで、なんでこんな暗いんだ?」
冷静になったところで、角元は道がやけに静かなことに気付く。
店は駅から近いところで、そこから自分の家までは繁華街を通るはずだった。それなのに周囲はまるで山道のように閑散としていて、ガードレールの向こう側は闇に閉ざされていた。
「すみません。先輩が気持ちよさそうに寝ていたので、起こすのが忍びなくて……少しドライブしていたんです」
もうすぐ着きますからと、佐々木が穏やかに口にする。
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