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「まぁ……良いけど。明日も早いから、急げよ」  不必要な配慮に角元は苛立つも、重い溜息を吐くのに留める。  しばらくすると、前方にトンネルが見えてくる。そこで佐々木が「知ってますか?」と、切り出した。 「ここのトンネルで以前、大学生の男が事故で死んでいるんです。原因はスピードの出し過ぎによるスリップ事故。それ以来、ここではその男子学生の霊が立っているって噂があるんです」  突然始まった怪談話に、角元は「おいおい」と咎める声を出す。 「何だよ急に。変な話すんじゃねよ」  角元は佐々木の方を睨み付ける。佐々木の顔がトンネルのオレンジ色の光りを浴びて、異様な雰囲気に感じられた。 「今では肝試しに来る人間が後を絶たないぐらい、有名な場所になっているみたいですよ。でも、俺は一度も見たことがないんです。何度もここに来ているっていうのに」 「おいっ! ふざけんなよ。やめろって言ってんだろ」  話を続ける佐々木に、角元は佐々木の肩に拳をぶつける。さすがに運転中に胸ぐらを掴むわけにいかなかった。 「本人は無念だと思います。真相が闇に葬られたままで、そのうえ死んでからも愚弄されているんですから」 「何なんだよ。いい加減にしろよ」  声を荒げて、佐々木の肩を揺さぶる。いつもと違う佐々木の様子に、さすがに角元も焦りを感じていた。  まるで何かに取り憑かれたような、胡乱(うろん)な表情。角元の粗暴にも、取り合わずにただ前だけをじっと見つめている。 「兄が……無謀な運転をするはずがない」  ぽつりと呟かれた一言に、角元の背筋は凍り付く。十年前に起きた事故を思い出し、まさかという焦燥感が胸に渦巻く。 「事故を起こしたのは、貴方ですよね」  きっぱりと告げられ、角元の額から冷たい汗が流れる。まさか、佐々木が弟だったと気付くはずがない。嫌な記憶は、遠い昔に置き去りにしていたからだ。
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